読書日記

スティーヴン・キング『心霊電流』(文藝春秋)、北村匡平『美と破壊の女優 京マチ子』(筑摩書房)、ジェーン・スー『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)ほか

  • 2019/04/12
◆『心霊電流』スティーヴン・キング/著(文藝春秋/上下各税別1800円)

これぞスティーヴン・キングだ。上下巻の『心霊電流』(峯村利哉訳)は、圧倒的筆力で読者の尻を叩(たた)く。6歳の「僕」モートンの住む町に、若き牧師ジェイコブスがやって来た。彼は電気を自在に操り、神秘的体験を現出させる。

しかし、災厄で妻子を失い、彼は町から姿を消した。「僕」はギター少年からプロになり、30代半ばにしてヤク漬けで破滅寸前。そこへ電気仕掛けの魔術師となったジェイコブス師が現れ、電気治療により主人公を救った。再びの別れと三たびの出会いは後編に。

富豪のスタジオで働き始めた「僕」は薬物中毒から抜け出し、初老を迎える頃、高電圧で奇跡を起こす「ダニー牧師」を知る。それこそ、電気で神の門戸を開いたあのジェイコブスだった。足なえを治す癒やしの「電撃」は、神の魔術なのか、インチキなのか。

物語はやがて「僕」と読者を恐怖のどん底に陥れる。これぞ、つかめば離さない「キング」の力。私はシビれました。

心霊電流 上 / スティーヴン キング
心霊電流 上
  • 著者:スティーヴン キング
  • 翻訳:峯村 利哉
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(270ページ)
  • 発売日:2019-01-30
  • ISBN-10:4163909656
  • ISBN-13:978-4163909653
内容紹介:
僕が少年だった日、町にやってきた若き牧師と、やがて訪れた悲劇。キングが怪奇小説の巨匠たちに捧げた慟哭と狂気と恐怖の物語。

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◆『美と破壊の女優 京マチ子』北村匡平・著(筑摩書房/税別1600円)

ベニス、カンヌで受賞した日本映画「羅生門」「雨月物語」「地獄門」すべてに出演した大女優。それなのに、我々は出自から折々のエピソードをほぼ知らない。「驚くほど忘却されたまま」だった。

まだ30代の映画研究家・北村匡平が『美と破壊の女優 京マチ子』で、その鬱憤を晴らしてくれた。大阪松竹少女歌劇団から大映入り。「艶やかな肉塊が、ところ狭しとスクリーンを転が」り、ヴァンプ女優として戦後の欲望を一身に背負いスターに。

一方、黒沢、溝口はじめ、巨匠と組んで文芸映画で世界的な演技派女優に。「千の顔をもつ国民女優」(帯文)となった。その過程を、著者は膨大な資料を網の目のように張り巡らし、跡づける。以後、映画研究の模範となるだろう。

正反対の役割を演じながら大衆の支持を得た陰に、全力で仕事に打ち込む姿が証言されている。スキャンダルとも無縁。謎にはちゃんと背景があった。我々は本書で初めて京マチ子を知るのだ。

美と破壊の女優 京マチ子 / 北村 匡平
美と破壊の女優 京マチ子
  • 著者:北村 匡平
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(286ページ)
  • 発売日:2019-02-13
  • ISBN-10:4480016775
  • ISBN-13:978-4480016775
内容紹介:
五〇年代に国民的な人気を得た京マチ子。旧弊な道徳を破壊したかと思えば古典的な女性を演じてみせた。その魅力の全てを語り尽くす!

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◆『私がオバさんになったよ』ジェーン・スー/著(幻冬舎/税別1400円)

ラジオパーソナリティーも務める人気コラムニストのジェーン・スー。『私がオバさんになったよ』は、人生折り返して円熟した各界の8人との対談を収録。ブス呼ばわりされる光浦靖子を「一般人に比べたら、清潔感あるし、全然きれいなんだけどね」と、ニュートラルに弁護する。「なにかを鵜呑みにはもうできない、自分の頭で考えないといけない時代」だと中野信子は言う。男女は「仲良くする必要はないんですよね。尊重するだけでいい」は著者。いいことたくさん書いてあります。

私がオバさんになったよ / ジェーン・スー,光浦 靖子,山内 マリコ,中野 信子,田中 俊之,海野 つなみ,宇多丸,酒井 順子,能町 みね子
私がオバさんになったよ
  • 著者:ジェーン・スー,光浦 靖子,山内 マリコ,中野 信子,田中 俊之,海野 つなみ,宇多丸,酒井 順子,能町 みね子
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:単行本(269ページ)
  • 発売日:2019-03-14
  • ISBN-10:4344034414
  • ISBN-13:978-4344034419

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◆『星の文人 野尻抱影伝』石田五郎・著(中公文庫/税別1000円)

『星三百六十五夜』をはじめ、倦(う)むことなく天体と星について語り書き続けた野尻抱影。評伝『星の文人 野尻抱影伝』を著すのに、うってつけなのが石田五郎(『天文台日記』の著者)だ。野尻はハマ生まれのハマ育ち。気骨のある明治人は、少年期、夜空のおびただしい星に、驚きの声を上げた。早稲田大卒業後、教師時代を経て、いよいよ「星の文人」となる。著者は、野尻の生涯に敬意を失うことなく叙述していく。「昇天し 寒星の座に居賜える」は親友・山口誓子による告別式の献句。

星の文人 野尻抱影伝 / 石田 五郎
星の文人 野尻抱影伝
  • 著者:石田 五郎
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(343ページ)
  • 発売日:2019-02-22
  • ISBN-10:4122066891
  • ISBN-13:978-4122066892
内容紹介:
飽くことなく星への憧憬を語って大正・昭和の天文少年少女を魅了し尽した“星の文人”野尻抱影。ハマッ子の洒脱、江戸趣味人の博識、心霊学への肩入れ、末弟・大仏次郎に見せる長兄の厳しさ……日本最大の「横丁のご隠居」の素顔。『野尻抱影―聞書“星の文人”伝』を改題

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◆『自閉症という知性』池上英子・著(NHK出版新書/税別860円)

自閉症ってかわいそう。そのひと言が、人種、文化、ジェンダー、セクシュアリティーなどと同じく、障壁を作って分断する。しかし池上英子は『自閉症という知性』という観点から、「見え方・感じ方の少数派」たちの取材を通して、「普通」だと思っている世界を捉え直す。複数のアバター(分身)を使って、リアルと仮想空間を往還するラレさん。自閉的世界をマンガで表現する女性、音も色で感じ取るギター奏者など、ひとくくりにできない。そのあり方の多様性に人間の可能性を見る。

自閉症という知性 / 池上 英子
自閉症という知性
  • 著者:池上 英子
  • 出版社:NHK出版
  • 装丁:新書(296ページ)
  • 発売日:2019-03-11
  • ISBN-10:4140885807
  • ISBN-13:978-4140885802

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サンデー毎日 2019年4月14日増大号

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