『蓼喰う虫』(新潮社)
辻原 登
なぜ谷崎は、小説家・佐藤春夫に自分の妻を「譲った」のか?世間を驚かせた「妻譲渡事件」の真意がこの作品にある。
全てにおいて完璧だと思って結婚した女なのに、なぜ妻という立場になると、欲情しなくなるのだろう……。
セックスレスが原因で不和に陥った一組の夫婦。夫・要は勝手気儘に娼婦を漁り、片や妻・美佐子は夫公認の間男・阿曾の元へと足繁く通う日々を送る。関係はもはや破綻しているのに、子供のことを考えると離婚に踏み切れない。夫婦を夫婦たらしめるものは一体何か。
著者の私生活を反映した問題作。巻末に用語、時代背景などについての詳細な注解、および解説を付す。
本文より
自分たちは自分たちの臆病を恥じるにはあたらない。臆病ならば臆病のようにそれに適応した方策に依って幸福を求めるがいい。そこで要はあらかじめ頭の中へ箇条書きにしておいた下のような条件を出して、「こうしてみたらどうか」と云った。――
一、 美佐子は当分世間的には要の妻であるべきこと。
一、 同様に阿曾は、当分世間的には彼女の友人であるべきこと。
一、 世間的に疑いを招かない範囲で、彼女が阿曾を愛することは精神的にも肉体的にも自由であること。
一、 かくして一二年の経過を見、……(本書126ページ)
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