〈真の創造の奇跡〉を、ここにふたたび。
〈この家はいつも地獄だった。みんな死んでもないのに、もうここでは死んだ人たちの話ばっかり。……でも暮らしがほんとに悪くなったときだった。セレスティーノが詩を書こうと思いついたのは。かわいそうなセレスティーノ! いまぼくには彼が見える。居間のドアの陰に坐って両腕を引き抜いている……〉
母親は井戸に飛びこみ、祖父は自分を殺そうとする。
寒村に生きる少年の目に鮮やかに映しだされる、現実と未分化なもう一つの世界。
ラテンアメリカの魔術的空間に、少年期の幻想と悲痛な叫びが炸裂する!
『めくるめく世界』『夜になるまえに』のアレナスが、さまざまな手法を駆使して作り出した奇跡の傑作。
『夜明け前のセレスティーノ』はリズムである。
ちょうどその著者がリズムであったように――ファン・アブレウ
***
〈アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス アチャス……
斧(アチャス)の音がしないとぼくは眠れない。止まるな!
止まるな!
止まるな!〉
〈「斧(アチャス)はどんな音たてる?」
「パスッって音、まるで空中で鳴きつづけてる霊みたいに」
「斧(アチャス)はどんな音たてる?」
「パスって音……。パスッ……」〉
***
少年期を、そしてキューバの生活を描いた最も美しい小説の一つ。
カルロス・フエンテス(作家)
この並外れた小説を読むことは創造の真の奇跡と接触することだった。新鮮な爽やかさへ、旧態を打破するような恐れを知らない屈託のなさへと通じる空間にわたしを近づけてくれたのだ。危険にみちた領域に。
……いま日本の読者の手に届くこの本は、思春期の輝かしい時代に、このうえない教訓をわたしに与えてくれた。つまり、「本当の文学とはわたしたちを変わり者にする文学、わたしたちを危険にさらす文学である。書くことはひとつの仕事ではなく、呪わしい儀式なのだ」という。
フアン・アブレウ(作家/画家)
—―本書日本語版のための特別エッセイ「ハバナの奇跡」より
『夜明け前のセレスティーノ』をどう語ったらいいか。濃緑の草がしゃべり出したような本だ。木の幹に詩を書くセレスティーノと、彼のいとこ「ぼく」。むきだしの生と死、暴力と抑圧。自由と抵抗の根っこには「詩」がある。叩きつけるリズムが日本語に乗り移った。
小池昌代(詩人/作家)
――『私が選ぶ国書刊行会の3冊 国書刊行会創業50周年記念小冊子』より
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