ツベルクリン騒動―明治日本の医と情報― / 月澤 美代子
ツベルクリン騒動―明治日本の医と情報―
  • 著者:月澤 美代子
  • 出版社:名古屋大学出版会
  • 装丁:単行本(504ページ)
  • 発売日:2022-11-02
  • ISBN-10:4815811016
  • ISBN-13:978-4815811013
内容紹介:
欧米では「フィーバーからスキャンダルへ」と化した、コッホによる「結核新治療薬」。日本社会はそれをどのように受け止めたのか。多様な医療雑誌による「情報」の伝達・普及・切り分けを軸に… もっと読む
欧米では「フィーバーからスキャンダルへ」と化した、コッホによる「結核新治療薬」。日本社会はそれをどのように受け止めたのか。多様な医療雑誌による「情報」の伝達・普及・切り分けを軸に、近代日本の医学・医療の風土が形成される転換期の実相を描き、今日への示唆に富む労作。

【目 次】
序 章
1 近代医学の転換点としての「ツベルクリン」
2 グッド・クリニカル・ジャッジメントと医療技術評価
3 医学医療史から見た19世紀後半とは
4 明治維新と近代医学の導入
5 トップダウンとボトムアップ
6 明治期日本の医師数と80%の医師
7 19世紀欧米の医療情報誌
8 本書の構成

第Ⅰ部 医療情報はどのように伝達されたか

第1章 明治日本における医療情報の導入・伝達・普及
1 医療情報の4区分
2 一般情報と内部情報
3 一般情報(information)に関する研究史
4 内部情報(intelligence)に関する研究状況

第2章 明治20年代日本の情報環境
1 「環境」「ひと」「もの」
2 国際的な情報インフラの整備 —— 電信・通信社・船便
3 日本国内での輸送環境
4 日本国内での「情報」を規制する法的な環境
5 情報発信地の東京一極集中

第3章 日本語医療情報誌と「一般新聞」
—— 明治23~24年を中心に
1 先行研究の検討
2 本書で主な検討対象とする医療情報誌の選考基準
3 本書で主な検討対象とする日刊紙

第Ⅱ部 明治日本の「ツベルクリン騒動」

第4章 「ツベルクリン騒動」とは何か
1 「ツベルクリン」とは何か
2 「ツベルクリン騒動」とは何か
3 先行研究の検討
4 臨床実験/病床実験と病名

ステージ1:発端・開始

第5章 日本の「ツベルクリン騒動」はどのように始まったのか
1 第10回ベルリン万国医学会でのコッホの発表
2 情報の導入・紹介
3 日本における「ツベルクリン騒動」の開始
4 さらなる拡大 —— 明治24年1月31日刊行『大日本私立衛生会雑誌』第92号
5 『官報』と「一般新聞」における情報伝達
6 長与専斎『松香私志』の記述再考

ステージ2:政府としての対応検討期
——「特例法」の建議と帝大・衛生試験所での検証試験

第6章 帝大病院・内務省衛生試験所の「ツベルクリン」検証報告
1 はじめに
2 緒方正規による建議と中央衛生会での論議
3 明治24年2月28日・中浜東一郎の演説
4 帝大病院での検証実験
5 内務省衛生試験所での検証実験と結果
6 結果はどのようなものとされたのか —— 4月30日・中浜演説
7 スクリバ報告の結果は信頼できるものだったのか
8 まとめ

第7章 検証実験の「一般の人々」への伝達
1 はじめに
2 『郵便報知新聞』掲載記事
3 『時事新報』での報道
4 『読売新聞』での報道
5 まとめ —— 3紙の微妙な違いから視えてくること

ステージ3:日本全国への普及

第8章 「特例法」と日本全国の医療施設での臨床実験
1 はじめに
——「ツベルクリン特例法(内務省令第三号)」の『官報』での公示
2 吉益東洞『結核新療 古弗氏ツベルクリン使用便覧』
3 「特例法」の適用範囲と官・府県立病院での臨床実験
4 「特例法」に基づく「ツベルクリン」使用申請と認可/不認可
5 日本全国における「ツベルクリン臨床実験」報告
6 公的な内部報告書に残された臨床実験成績
7 「特例法」の廃止
8 まとめ

医療情報誌から視る「ツベルクリン騒動」

第9章 学会誌から視る「ツベルクリン騒動」
1 はじめに
2 『東京医学会雑誌』から視た「ツベルクリン騒動」
3 『順天堂医事研究会報告』から視た「ツベルクリン騒動」

第10章 商業誌3誌における「ツベルクリン」情報掲載の推移
1 はじめに
2 『中外医事新報』から視た「ツベルクリン騒動」
3 『東京医事新誌』から視た「ツベルクリン騒動」
4 『医事新聞』から視た「ツベルクリン騒動」

第11章 5誌の比較検討から視えてくること
1 「医療情報」と「医療界の情報」と
2 「情報」収集力・伝達力・発信力
3 「情報」の切り分け ——「伝えられた情報/伝えられなかった情報」
4 「ツベルクリン」臨床実験と「ツベルクリン騒動」の終息との関係
5 『大日本私立衛生会雑誌』における「ツベルクリン騒動」の終息

第Ⅲ部 階層化されていく時代と医療情報誌

北里柴三郎と伝染病研究所

第12章 明治24年度大日本帝国予算案と内務省
1 はじめに
2 明治24年度予算案審議
3 明治24年度内務省予算をめぐる攻防と長与専斎の辞任
4 北里の帰国 —— 明治25年5月~6月の内務省

第13章 「伝説」の再検討
—— 帝大3教授はコッホに「門前払い」されたのか
1 「伝説」のルーツ・その1 ——『北里柴三郎伝』
2 北里の留学と帝大医学士の派遣
3 「伝説」のルーツ・その2 —— 長谷川泰の演説
4 帝大3医学士のドイツ派遣時のコッホの状況
5 「伝説」の背景

第14章 審事機関としての伝染病研究所
1 伝染病研究所の創設
2 国家衛生の審事機関としての伝染病研究所
3 香港派遣命令
4 ジフテリア血清療法
5 人材の育成 —— 衛生官の教育
6 研究に使用される身体
7 「ツベルクリン」評価 —— 不可侵の領域としての「ツベルクリン」

医療情報誌の階層化

第15章 トップダウンとボトムアップ
—— 医療専門職層の拡大と質の変化
1 はじめに
2 『細菌学雑誌』の創刊と医療情報誌の専門分化
3 国家医学という領域
4 日本医学会の創設と専門医学会
5 地方医学会の創設と官立医学校紀要の刊行

第16章 医療情報誌マーケットの拡大と富士川游の模索
1 はじめに
2 『中外医事新報』と富士川游の模索
3 啓発誌の隆盛

第17章 明治20年代日本の医療情報誌と階層化
1 医療情報誌の使命とは
2 「ツベルクリン騒動」後の各誌の配布数
3 階層化されていく医療情報誌

終 章 「ツベルクリン騒動」とは何だったのか
1 共存する「時間」と氾濫する「情報」
2 時間差のある地域 —— 島国というメリット
3 科学的医学とは
4 「ツベルクリン騒動」は、いかに語られてきたか
5 模索と模倣の時代 ——「臨床研究に使用される身体」をどう扱うか

付表 「ツベルクリン騒動」関連略年表 / 注 / あとがき / 参考文献 / 図表一覧 / 索 引

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