書評

『ツベルクリン騒動―明治日本の医と情報―』(名古屋大学出版会)

  • 2024/03/21
ツベルクリン騒動―明治日本の医と情報― / 月澤 美代子
ツベルクリン騒動―明治日本の医と情報―
  • 著者:月澤 美代子
  • 出版社:名古屋大学出版会
  • 装丁:単行本(504ページ)
  • 発売日:2022-11-02
  • ISBN-10:4815811016
  • ISBN-13:978-4815811013
内容紹介:
欧米では「フィーバーからスキャンダルへ」と化した、コッホによる「結核新治療薬」。日本社会はそれをどのように受け止めたのか。多様な医療雑誌による「情報」の伝達・普及・切り分けを軸に… もっと読む
欧米では「フィーバーからスキャンダルへ」と化した、コッホによる「結核新治療薬」。日本社会はそれをどのように受け止めたのか。多様な医療雑誌による「情報」の伝達・普及・切り分けを軸に、近代日本の医学・医療の風土が形成される転換期の実相を描き、今日への示唆に富む労作。

【目 次】
序 章
1 近代医学の転換点としての「ツベルクリン」
2 グッド・クリニカル・ジャッジメントと医療技術評価
3 医学医療史から見た19世紀後半とは
4 明治維新と近代医学の導入
5 トップダウンとボトムアップ
6 明治期日本の医師数と80%の医師
7 19世紀欧米の医療情報誌
8 本書の構成

第Ⅰ部 医療情報はどのように伝達されたか

第1章 明治日本における医療情報の導入・伝達・普及
1 医療情報の4区分
2 一般情報と内部情報
3 一般情報(information)に関する研究史
4 内部情報(intelligence)に関する研究状況

第2章 明治20年代日本の情報環境
1 「環境」「ひと」「もの」
2 国際的な情報インフラの整備 —— 電信・通信社・船便
3 日本国内での輸送環境
4 日本国内での「情報」を規制する法的な環境
5 情報発信地の東京一極集中

第3章 日本語医療情報誌と「一般新聞」
—— 明治23~24年を中心に
1 先行研究の検討
2 本書で主な検討対象とする医療情報誌の選考基準
3 本書で主な検討対象とする日刊紙

第Ⅱ部 明治日本の「ツベルクリン騒動」

第4章 「ツベルクリン騒動」とは何か
1 「ツベルクリン」とは何か
2 「ツベルクリン騒動」とは何か
3 先行研究の検討
4 臨床実験/病床実験と病名

ステージ1:発端・開始

第5章 日本の「ツベルクリン騒動」はどのように始まったのか
1 第10回ベルリン万国医学会でのコッホの発表
2 情報の導入・紹介
3 日本における「ツベルクリン騒動」の開始
4 さらなる拡大 —— 明治24年1月31日刊行『大日本私立衛生会雑誌』第92号
5 『官報』と「一般新聞」における情報伝達
6 長与専斎『松香私志』の記述再考

ステージ2:政府としての対応検討期
——「特例法」の建議と帝大・衛生試験所での検証試験

第6章 帝大病院・内務省衛生試験所の「ツベルクリン」検証報告
1 はじめに
2 緒方正規による建議と中央衛生会での論議
3 明治24年2月28日・中浜東一郎の演説
4 帝大病院での検証実験
5 内務省衛生試験所での検証実験と結果
6 結果はどのようなものとされたのか —— 4月30日・中浜演説
7 スクリバ報告の結果は信頼できるものだったのか
8 まとめ

第7章 検証実験の「一般の人々」への伝達
1 はじめに
2 『郵便報知新聞』掲載記事
3 『時事新報』での報道
4 『読売新聞』での報道
5 まとめ —— 3紙の微妙な違いから視えてくること

ステージ3:日本全国への普及

第8章 「特例法」と日本全国の医療施設での臨床実験
1 はじめに
——「ツベルクリン特例法(内務省令第三号)」の『官報』での公示
2 吉益東洞『結核新療 古弗氏ツベルクリン使用便覧』
3 「特例法」の適用範囲と官・府県立病院での臨床実験
4 「特例法」に基づく「ツベルクリン」使用申請と認可/不認可
5 日本全国における「ツベルクリン臨床実験」報告
6 公的な内部報告書に残された臨床実験成績
7 「特例法」の廃止
8 まとめ

医療情報誌から視る「ツベルクリン騒動」

第9章 学会誌から視る「ツベルクリン騒動」
1 はじめに
2 『東京医学会雑誌』から視た「ツベルクリン騒動」
3 『順天堂医事研究会報告』から視た「ツベルクリン騒動」

第10章 商業誌3誌における「ツベルクリン」情報掲載の推移
1 はじめに
2 『中外医事新報』から視た「ツベルクリン騒動」
3 『東京医事新誌』から視た「ツベルクリン騒動」
4 『医事新聞』から視た「ツベルクリン騒動」

第11章 5誌の比較検討から視えてくること
1 「医療情報」と「医療界の情報」と
2 「情報」収集力・伝達力・発信力
3 「情報」の切り分け ——「伝えられた情報/伝えられなかった情報」
4 「ツベルクリン」臨床実験と「ツベルクリン騒動」の終息との関係
5 『大日本私立衛生会雑誌』における「ツベルクリン騒動」の終息

第Ⅲ部 階層化されていく時代と医療情報誌

北里柴三郎と伝染病研究所

第12章 明治24年度大日本帝国予算案と内務省
1 はじめに
2 明治24年度予算案審議
3 明治24年度内務省予算をめぐる攻防と長与専斎の辞任
4 北里の帰国 —— 明治25年5月~6月の内務省

第13章 「伝説」の再検討
—— 帝大3教授はコッホに「門前払い」されたのか
1 「伝説」のルーツ・その1 ——『北里柴三郎伝』
2 北里の留学と帝大医学士の派遣
3 「伝説」のルーツ・その2 —— 長谷川泰の演説
4 帝大3医学士のドイツ派遣時のコッホの状況
5 「伝説」の背景

第14章 審事機関としての伝染病研究所
1 伝染病研究所の創設
2 国家衛生の審事機関としての伝染病研究所
3 香港派遣命令
4 ジフテリア血清療法
5 人材の育成 —— 衛生官の教育
6 研究に使用される身体
7 「ツベルクリン」評価 —— 不可侵の領域としての「ツベルクリン」

医療情報誌の階層化

第15章 トップダウンとボトムアップ
—— 医療専門職層の拡大と質の変化
1 はじめに
2 『細菌学雑誌』の創刊と医療情報誌の専門分化
3 国家医学という領域
4 日本医学会の創設と専門医学会
5 地方医学会の創設と官立医学校紀要の刊行

第16章 医療情報誌マーケットの拡大と富士川游の模索
1 はじめに
2 『中外医事新報』と富士川游の模索
3 啓発誌の隆盛

第17章 明治20年代日本の医療情報誌と階層化
1 医療情報誌の使命とは
2 「ツベルクリン騒動」後の各誌の配布数
3 階層化されていく医療情報誌

終 章 「ツベルクリン騒動」とは何だったのか
1 共存する「時間」と氾濫する「情報」
2 時間差のある地域 —— 島国というメリット
3 科学的医学とは
4 「ツベルクリン騒動」は、いかに語られてきたか
5 模索と模倣の時代 ——「臨床研究に使用される身体」をどう扱うか

付表 「ツベルクリン騒動」関連略年表 / 注 / あとがき / 参考文献 / 図表一覧 / 索 引
結核感染の判定薬として知られるツベルクリンが、当初コッホが開発した治療薬として「過剰な期待感に満ちた集団的な動き」、つまり騒動を引き起こした経緯が、医療「情報」の伝達、普及、切り分けという面から示される。著者は「情報」の伝達のされ方と同時に、内容の「選択」と「切り分け」とに注目する。「21世紀の技術革新がもたらした社会」は「『切り分け』が誰の目にも見えにくくなっている」ことが問題であり、その解決には歴史家の参加が必要と考えているからである。

日本での騒動は、従来海外からの情報で新聞や開業医が騒いだことにされてきたが、実は長与専斎(内務省衛生局長)が導入し、福沢諭吉(『時事新報』主幹)が広めたのだとある。そのうえ、北里柴三郎もこれを「科学的医学」として囲い込んだと知り驚いた。権威による実践への批判や評価を許さない医療界の風土誕生の原点ここにありというわけだ。「特例法」発令下で行われた臨床実験については、内務省衛生局の報告書作成も情報公開もなく、「国家医学」という概念が生まれて情報誌の階層化が進んだ。事実を通して医療史を考える見事な例だ。
ツベルクリン騒動―明治日本の医と情報― / 月澤 美代子
ツベルクリン騒動―明治日本の医と情報―
  • 著者:月澤 美代子
  • 出版社:名古屋大学出版会
  • 装丁:単行本(504ページ)
  • 発売日:2022-11-02
  • ISBN-10:4815811016
  • ISBN-13:978-4815811013
内容紹介:
欧米では「フィーバーからスキャンダルへ」と化した、コッホによる「結核新治療薬」。日本社会はそれをどのように受け止めたのか。多様な医療雑誌による「情報」の伝達・普及・切り分けを軸に… もっと読む
欧米では「フィーバーからスキャンダルへ」と化した、コッホによる「結核新治療薬」。日本社会はそれをどのように受け止めたのか。多様な医療雑誌による「情報」の伝達・普及・切り分けを軸に、近代日本の医学・医療の風土が形成される転換期の実相を描き、今日への示唆に富む労作。

【目 次】
序 章
1 近代医学の転換点としての「ツベルクリン」
2 グッド・クリニカル・ジャッジメントと医療技術評価
3 医学医療史から見た19世紀後半とは
4 明治維新と近代医学の導入
5 トップダウンとボトムアップ
6 明治期日本の医師数と80%の医師
7 19世紀欧米の医療情報誌
8 本書の構成

第Ⅰ部 医療情報はどのように伝達されたか

第1章 明治日本における医療情報の導入・伝達・普及
1 医療情報の4区分
2 一般情報と内部情報
3 一般情報(information)に関する研究史
4 内部情報(intelligence)に関する研究状況

第2章 明治20年代日本の情報環境
1 「環境」「ひと」「もの」
2 国際的な情報インフラの整備 —— 電信・通信社・船便
3 日本国内での輸送環境
4 日本国内での「情報」を規制する法的な環境
5 情報発信地の東京一極集中

第3章 日本語医療情報誌と「一般新聞」
—— 明治23~24年を中心に
1 先行研究の検討
2 本書で主な検討対象とする医療情報誌の選考基準
3 本書で主な検討対象とする日刊紙

第Ⅱ部 明治日本の「ツベルクリン騒動」

第4章 「ツベルクリン騒動」とは何か
1 「ツベルクリン」とは何か
2 「ツベルクリン騒動」とは何か
3 先行研究の検討
4 臨床実験/病床実験と病名

ステージ1:発端・開始

第5章 日本の「ツベルクリン騒動」はどのように始まったのか
1 第10回ベルリン万国医学会でのコッホの発表
2 情報の導入・紹介
3 日本における「ツベルクリン騒動」の開始
4 さらなる拡大 —— 明治24年1月31日刊行『大日本私立衛生会雑誌』第92号
5 『官報』と「一般新聞」における情報伝達
6 長与専斎『松香私志』の記述再考

ステージ2:政府としての対応検討期
——「特例法」の建議と帝大・衛生試験所での検証試験

第6章 帝大病院・内務省衛生試験所の「ツベルクリン」検証報告
1 はじめに
2 緒方正規による建議と中央衛生会での論議
3 明治24年2月28日・中浜東一郎の演説
4 帝大病院での検証実験
5 内務省衛生試験所での検証実験と結果
6 結果はどのようなものとされたのか —— 4月30日・中浜演説
7 スクリバ報告の結果は信頼できるものだったのか
8 まとめ

第7章 検証実験の「一般の人々」への伝達
1 はじめに
2 『郵便報知新聞』掲載記事
3 『時事新報』での報道
4 『読売新聞』での報道
5 まとめ —— 3紙の微妙な違いから視えてくること

ステージ3:日本全国への普及

第8章 「特例法」と日本全国の医療施設での臨床実験
1 はじめに
——「ツベルクリン特例法(内務省令第三号)」の『官報』での公示
2 吉益東洞『結核新療 古弗氏ツベルクリン使用便覧』
3 「特例法」の適用範囲と官・府県立病院での臨床実験
4 「特例法」に基づく「ツベルクリン」使用申請と認可/不認可
5 日本全国における「ツベルクリン臨床実験」報告
6 公的な内部報告書に残された臨床実験成績
7 「特例法」の廃止
8 まとめ

医療情報誌から視る「ツベルクリン騒動」

第9章 学会誌から視る「ツベルクリン騒動」
1 はじめに
2 『東京医学会雑誌』から視た「ツベルクリン騒動」
3 『順天堂医事研究会報告』から視た「ツベルクリン騒動」

第10章 商業誌3誌における「ツベルクリン」情報掲載の推移
1 はじめに
2 『中外医事新報』から視た「ツベルクリン騒動」
3 『東京医事新誌』から視た「ツベルクリン騒動」
4 『医事新聞』から視た「ツベルクリン騒動」

第11章 5誌の比較検討から視えてくること
1 「医療情報」と「医療界の情報」と
2 「情報」収集力・伝達力・発信力
3 「情報」の切り分け ——「伝えられた情報/伝えられなかった情報」
4 「ツベルクリン」臨床実験と「ツベルクリン騒動」の終息との関係
5 『大日本私立衛生会雑誌』における「ツベルクリン騒動」の終息

第Ⅲ部 階層化されていく時代と医療情報誌

北里柴三郎と伝染病研究所

第12章 明治24年度大日本帝国予算案と内務省
1 はじめに
2 明治24年度予算案審議
3 明治24年度内務省予算をめぐる攻防と長与専斎の辞任
4 北里の帰国 —— 明治25年5月~6月の内務省

第13章 「伝説」の再検討
—— 帝大3教授はコッホに「門前払い」されたのか
1 「伝説」のルーツ・その1 ——『北里柴三郎伝』
2 北里の留学と帝大医学士の派遣
3 「伝説」のルーツ・その2 —— 長谷川泰の演説
4 帝大3医学士のドイツ派遣時のコッホの状況
5 「伝説」の背景

第14章 審事機関としての伝染病研究所
1 伝染病研究所の創設
2 国家衛生の審事機関としての伝染病研究所
3 香港派遣命令
4 ジフテリア血清療法
5 人材の育成 —— 衛生官の教育
6 研究に使用される身体
7 「ツベルクリン」評価 —— 不可侵の領域としての「ツベルクリン」

医療情報誌の階層化

第15章 トップダウンとボトムアップ
—— 医療専門職層の拡大と質の変化
1 はじめに
2 『細菌学雑誌』の創刊と医療情報誌の専門分化
3 国家医学という領域
4 日本医学会の創設と専門医学会
5 地方医学会の創設と官立医学校紀要の刊行

第16章 医療情報誌マーケットの拡大と富士川游の模索
1 はじめに
2 『中外医事新報』と富士川游の模索
3 啓発誌の隆盛

第17章 明治20年代日本の医療情報誌と階層化
1 医療情報誌の使命とは
2 「ツベルクリン騒動」後の各誌の配布数
3 階層化されていく医療情報誌

終 章 「ツベルクリン騒動」とは何だったのか
1 共存する「時間」と氾濫する「情報」
2 時間差のある地域 —— 島国というメリット
3 科学的医学とは
4 「ツベルクリン騒動」は、いかに語られてきたか
5 模索と模倣の時代 ——「臨床研究に使用される身体」をどう扱うか

付表 「ツベルクリン騒動」関連略年表 / 注 / あとがき / 参考文献 / 図表一覧 / 索 引

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2022年12月3日

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