書評

『コード・グレー――救命救急医がみた医療の限界と不確実性』(みすず書房)

  • 2024/12/19
コード・グレー――救命救急医がみた医療の限界と不確実性 / ファーゾン・A・ナーヴィ
コード・グレー――救命救急医がみた医療の限界と不確実性
  • 著者:ファーゾン・A・ナーヴィ
  • 翻訳:桐谷 知未
  • 監修:原井 宏明
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(248ページ)
  • 発売日:2024-08-20
  • ISBN-10:4622097222
  • ISBN-13:978-4622097228
内容紹介:
「わたしは、たとえコード・ブルーやコード・ブラックに注目が集まりがちでも、結局のところ日々経験しているコード・グレー、つまり世界そのものに対して何を感じ、何を信じるかが試される微… もっと読む
「わたしは、たとえコード・ブルーやコード・ブラックに注目が集まりがちでも、結局のところ日々経験しているコード・グレー、つまり世界そのものに対して何を感じ、何を信じるかが試される微妙な瞬間こそが、救急室で、さらにはその外で遭遇する最も重要なドラマであることを学んだ」新型コロナウイルス禍、各国で救命救急室(ER)の逼迫がクローズアップされた。だが、コロナ禍以前からERの現場はとっくに危機を迎え、多くの医療従事者を失っていたのだ。ウイルスによってでなく、燃え尽き症候群や自殺によって―。花嫁衣裳のまま救急室に運び込まれ、処置のためにドレスを切り裂かれる女性。アルコール依存症のため毎日救急室と路上生活を行き来する男性。そして、ERでは治療することができず、見送ることしかできない患者たち…。ERの現場には、日々とてつもなく心を揺さぶられるシーンが訪れる。つねに死と向き合い、自身の善悪の概念を試され、複雑で予測不可能なERの現場。ニューヨークのERに勤める若き救急医が、率直な想いを巧みな構成で描くノンフィクション。

目次
第1部(死を告げるもの;医学の学位と子犬の対決;命を救う行為の猛烈な勢い;オーケストラとひとりの観客;必死に手がかりを探して ほか)
第2部(がんだった咳;ついに序章が始まった;お役所的な要求の不条理;死因―不明;知識は力か、無知こそ幸いか ほか)
新型コロナウイルス禍の中で米国の救命救急室(ER)は混乱し、1年で3600人以上の医療従事者がコロナ感染で死亡した。

病原体としてのウイルスが怖いわけじゃない。病院の責任者が誰ひとり、何が起こっているのかわかってないように見えるから怖いんだ。

著者は、このウイルスが米国の医療を壊したのではなく、以前から壊れていたことを暴いたのだと気づく。

ERでは前から燃えつき症候群や自殺で、医療従事者を失っていたではないか。

アルコール依存症で毎日ERと路上の間を行き来する男性や待たされて不満を言う風邪ひきの女性。

お腹と胸の痛みで運ばれ、亡くなった女性は子宮外妊娠で、子どもを望んでも叶えられずにきたと夫が語る。望みの実現が命を奪ったのだ。

人類を月に着陸させた政府が、ハリケーン被災地に水を届けられなかったのと同じく、医療現場は限界だらけだ。

米国には保険の問題もある。

複雑で、予測不能の中で死と向き合う現場は、まさにグレーであり現代の象徴だ。
コード・グレー――救命救急医がみた医療の限界と不確実性 / ファーゾン・A・ナーヴィ
コード・グレー――救命救急医がみた医療の限界と不確実性
  • 著者:ファーゾン・A・ナーヴィ
  • 翻訳:桐谷 知未
  • 監修:原井 宏明
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(248ページ)
  • 発売日:2024-08-20
  • ISBN-10:4622097222
  • ISBN-13:978-4622097228
内容紹介:
「わたしは、たとえコード・ブルーやコード・ブラックに注目が集まりがちでも、結局のところ日々経験しているコード・グレー、つまり世界そのものに対して何を感じ、何を信じるかが試される微… もっと読む
「わたしは、たとえコード・ブルーやコード・ブラックに注目が集まりがちでも、結局のところ日々経験しているコード・グレー、つまり世界そのものに対して何を感じ、何を信じるかが試される微妙な瞬間こそが、救急室で、さらにはその外で遭遇する最も重要なドラマであることを学んだ」新型コロナウイルス禍、各国で救命救急室(ER)の逼迫がクローズアップされた。だが、コロナ禍以前からERの現場はとっくに危機を迎え、多くの医療従事者を失っていたのだ。ウイルスによってでなく、燃え尽き症候群や自殺によって―。花嫁衣裳のまま救急室に運び込まれ、処置のためにドレスを切り裂かれる女性。アルコール依存症のため毎日救急室と路上生活を行き来する男性。そして、ERでは治療することができず、見送ることしかできない患者たち…。ERの現場には、日々とてつもなく心を揺さぶられるシーンが訪れる。つねに死と向き合い、自身の善悪の概念を試され、複雑で予測不可能なERの現場。ニューヨークのERに勤める若き救急医が、率直な想いを巧みな構成で描くノンフィクション。

目次
第1部(死を告げるもの;医学の学位と子犬の対決;命を救う行為の猛烈な勢い;オーケストラとひとりの観客;必死に手がかりを探して ほか)
第2部(がんだった咳;ついに序章が始まった;お役所的な要求の不条理;死因―不明;知識は力か、無知こそ幸いか ほか)

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年9月7日

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