• 2018/10/31

プロ・アマの垣根を越えた「書評祭り」を! 書評家・豊﨑由美さんインタビュー

ALL REVIEWSは、「書評アーカイブWEBサイト」を標榜しているだけあって、世の中にもっと「書評を読む習慣」、あるいはむしろ「書評を書く習慣」が広がっていけばよいと考えています。出版危機が叫ばれる昨今、書評で出版業界をどげんかしたい!

そこで今回ご紹介したいのは、NetGalley(ネットギャリー)。これは2017年10月から始まったWEBサービス。

発売前の書籍のゲラ(※)がNetGalleyに掲載されており、読んでみたいにゲラにリクエストを送る。そのリクエストが出版社に承認されると読めるようになる仕組みです。「本を積極的に読んで、その本の書評(レビュー)を書いて、応援をしたい!」という人にはたまらないものです。

(※ゲラ:校正のための印刷物。書籍と同じレイアウトで見開きごとに大判の一枚の紙に印刷されている。原稿→初校→再校→念校と版を経るごとに修正が重ねられ、書籍になった折にはひとつのミスもなく……となれば理想的だが、そうはならないのが常であり、致命的な誤植に編集者と作家が頭を抱えることも)

今回はALL REVIEWSにご参加いただいている書評家・豊﨑由美さんに実際にNetGalleyを使っていただき、感想を伺いました。



デジタルだけど自由に書き込みもできる。そしてペーパーレス

――NetGalleyを使ってみての率直なご感想は?

電子ゲラなので画面上で読むのですが、マーカーで線が引けるだけじゃなくて、書き込みも自由にできるので、私のようなプロの書評家にとってはほかの電子書籍サービスよりもずっと使い勝手はいいと思いました。

――電子ゲラは印刷や転送がされないようにセキュリティがかかっています。PCならAdobe Digital Editions、スマホやタブレットならBluefire Readerというソフトをそれぞれインストールしてゲラを閲覧することになります。その辺りはいかがでしたか?

私は古いバージョンのiPadを使っているんですけど、それにBluefire Readerを入れたら動作がおかしくなるんじゃないか、とちょっと怖かったんですよね。PCで使うにしても、古いWindowsを使い続ける人たちが、プロの書き手でさえ一定数いるわけで(笑)、NetGalleyを全国の書店員や図書館司書、学校の先生方に浸透させるには、もっと簡単に登録できるようになってほしいですねー。簡単すぎて誰でも読めてしまうのはよくないですが。使ってみると良いサービスでした!

――やはり書き込みができるのは重要ですか?

書評を書く本については書き込みできないと、私は絶対ダメです。KindleもiBooksもマーカーやブックマークはできても、自由に、しかも簡単に手書きでは書き込みができない、そこが私には致命的でした。

でもBluefire Readerの場合、iPadとApple Pencilの組み合わせで、読みながら思ったことを紙の本の感覚で自由に書き込めて、色まで変えられる。驚きましたねー。

とはいえ私は旧世代の人間なんで、やっぱり紙の本がベストではあるんです。手に持った厚さが目安になって、このセリフはこのあたりの右側だったな、なんてパッとそのページを開けることもあったりします。記憶力と手の感覚を総動員しながら読んでいるので、それはやっぱり手放せません。

でもその反面、私は紙のゲラが大嫌いなんです。仕事柄、刊行前にゲラで読んで発売のタイミングで書評を書いてくれないかという依頼も多いんですけど、出版社のPR誌と文庫解説以外ではゲラは基本的にはお断りしています。かさばるし、読みにくいし、ゴミになるので。ゲラで読むのが大好きな書き手の方ももちろんいますけど、紙のゲラに悩まされている方も少なくないし、今ではタブレットとPDFで校正している作家やライターも大勢いますよね。

――ではNetGalleyのシステムを使ってのゲラ読みであれば……

それは紙よりずっといい! 字の大きさも変えられるから、老眼が始まった身にもありがたいです(笑)。NetGalleyを使うと出版社のゲラの印刷、発送のコストも大幅に下げられるし、読み手サイドも便利になるので、双方とももっと活用した方がいいです。

――現在は、常時100~150点の本がリクエスト可能にはなっていますが、やはり少ないですか?

少ない!「こんなにたくさんじゃ、選びきれなーい」という状態じゃないと、私たち愛書家は興奮しないわけですよ。

それで思うんですけど、いま掲載されているのは表紙もついてきれいにレイアウトされた「完成版」が多いように見受けられますが、仮表紙でどんどんアップすればいいんじゃないでしょうか。ゲラも再校が終わったぐらいの段階でスピーディに。その方がNetGalley(※)という名前にもふさわしいんじゃないかなあ。

(※Galley(ギャリー)とはもともとは活版印刷の時代に、組んだ活字を入れて印刷まで維持するための容器のこと。日本ではそれが転じて校正刷り=ゲラと呼ばれるように。)

――ゲラを読むことで本が生まれるプロセスの一部に関われるのは、本好きにとっては嬉しいことかも知れませんね。

そうですよね。いまの出版状況って厳しいじゃないですか。そのなかで、これは全く肯定していない傾向なんですけど、版元は発売直後の初速ばかり見ていますよね。発売して1~2週間で動いていれば増刷、そうでなければそれまで、という感じで。書店員や影響力のあるブロガーにゲラの段階で読んでもらって、感想をSNSなどでもっと拡散してもらえば初速を加速させる可能性がある。もちろんプロの書評家も巻き込めれば言うことなしですけど。

――無名の新人作家の処女作がネットの口コミでじわじわ広がってヒットした例もありますしね。

本は生き物みたいなところがあって、初速から動く本もあれば、じわじわと動き続けて気がつけば2万人が読んでいた、ということもあるから、そういう可能性が広がるのはすごくいいことだと思います。だから版元は、よりすぐりの、なんて言わずに新人の作品をゲラの状態でどんどんアップしていけばいんじゃないでしょうか。新人賞受賞作も、雑誌掲載前から発売後2週間後まで限定でアップするとかすれば、もっと注目を浴びると思うんですよね。ただ私は、新刊中心のプロモーションからこぼれてしまう本がかわいそうだな、とも思ってしまいますけど。

――既刊書、とくに海外文学の翻訳書では初版2000部の本を5~6年かけて売っていく、という売り方が普通のことですよね。話題にならずに埋もれてしまった良書に光を当てるサービスとして、NetGalleyを活用できそうな気がします。

そうですね、そうなるといいですねえ。内容は素晴らしいのに、部数が少なくて広告も打てないから、あまり人に知られないまま忘れられていく作品はたくさんあります。そこはむしろプロが「この傑作はNetGalleyで読めるよ。だけどレビューを書いて応援してね」と働きかければいいんじゃないですかね。それが話題になって、3年でようやく初版を売り切ってついに増刷できた、そんな動かし方も模索したいですよね。可能性はすごくあると思うんですよ。

とにかく、未完成で構わないし古くても構わないから、版元がどんどんアップするような仕掛けをしていってほしいです。表紙は後からアップすればいい。ただし、「これは第○回××新人賞受賞作で、こんなストーリーです。選考委員からはこんな言葉をもらいました」と簡単な情報を編集者が作品紹介画面に積極的に記入した方がいいとは思います。表紙よりも、どんな本なのかをNetGalleyを使う人は知りたがっているはずですから!


書評は「まだ読んでいない人」のために書く


――NetGalleyは書店員や図書館司書といった本に関わる職業の方だけではなく、一般の人もレビューを発表する場です。アマチュアのレビュアーが増えることについてはどう思われますか?


書評という文化を豊かにするには、プロとアマの垣根ははっきりしていないほうがいいと思いますね。プロの書評家がNetGalleyに掲載されている良いレビューを選んで、ALL REVIEWSにもアップすればいいんじゃないですか。平日は会社に通っていても、土日にたくさんの本を読んでプロも真っ青な書評を書く人は存在しますし、そういう人を見つけられる場になればおもしろいですよね。書評祭りにしちゃえばいいんですよ。

――豊﨑さんは書評講座もされていますよね。

うちの講座はレベルが高いですよ。句会方式で、誰がその書評を書いたかを伏せて参加者みんなで採点して、いちばん点が高かった人がその月の「書評王」になるんですけど、私もせいぜい年に1回か2回しか書評王に選ばれませんからね。

――そんなメンバーに揉まれれば上達は早そうですね。

周りの人の影響は大きいですね。池袋では15年以上講座をやってきて、4年前からは名古屋でも始めたんですが、比較すると初期から通い続けるメンバーもいる池袋のほうが成長は早いです。名古屋でもうまい人が何人かいるので、これからでしょうね。

――そもそもうまい書評、良い書評とは何なのでしょうか?

その本を書店のレジまで連れて行くのが、書評にとっての理想中の理想なんですよね。だから、いくら面白くても「読む前に読んだ気にさせる」書評はダメなんです。ネタバレや、ストーリーの核心を書いてしまうのもダメ。読む人のことを考えていない文章は、ただの感想文です。そういったことを意識してNetGalleyにレビューを投稿すれば、版元からの覚えもよくなるんじゃないでしょうか(笑)。編集者は自分の作った本のレビューを探して読んでますから、「この人すごい」と思わせればPR誌あたりから依頼が来るかも知れない。プロのレビュアーになれる可能性はありますよ、きっと。

――良い書評は、上手な呼び込みや客引きみたいなものなんですね。

そう。書評家って、香具師(やし)なんです。私、足代だけで全国どこにでも行って、「フーテンのトヨさん」として本を売りまくりますよ、って全国の書店員さんに呼びかけているんです。交通費と、本当に安いビジネスホテルでいいので宿泊費さえいただければ、全国どこにだって行きますよ。去年は青森県の八戸ブックセンターっていうステキな書店さんが呼んでくださって、売りまくってきました。今年も呼んでくださったので再訪が楽しみなんです。

――上手な香具師になりたい人が、知っておくといいコツはありませんか?

たいていの読者は短気だと思ったほうがいいです。書き出しの5行がつまらなかったら、もう読んでくれない。つかみは大事なので、力を入れたほうがいいですよね。

一番マネしやすい書き方は、いきなり引用から始めてみることですね。ただし、どうでもいい箇所を引用したらダメですよ。引用というのは批評そのものなんです。つまりどこを引用するのかで、どう読んだのか、そのレビュアーの力量がわかってしまうんです。思わず引き込まれるような引用から始まると、「なんだ?」ってなりますよね。引用のすぐあとで引用の意味を明かしてしまうのではなく、少し読者をじらしつつ徐々に明らかにするのもいい方法です。わりとマネしやすいと思いますね。

――一冊の本から、未読の人の気をもっとも惹く箇所を選ぶ作業は、それだけでかなりの修行ですね。

そうですそうです。そこが腕の見せどころだし、私たちプロがたくさん付箋を貼ったり書き込みをするのはそのためでもあるんですよ。

――毎月講座をされている経験から、伸びる人はどこが違いますか?

毎月書いてちゃんと提出する人。基本ですけど、本当に伸びますね。最初は「てにをは」も変だった人が、1年後には書評王になっていたりしますから。そういう人はメモも真剣にとっていますね。私の言ったことだけじゃなく、講座生みんなの意見もメモして、それを反映して書き直したりもしています。やっぱりとにかく書くこと、それにまさる上達法はないですよね。理想は1週間に1冊くらいのペースで書ければいいんでしょうけど、仕事をしながらだとなかなか難しいと思うので、まずは月に1冊を目標にしたらいいんじゃないですかね。さらにもっと上手くなりたくなったら、NetGalleyでゲラを読んで、ぜひ私がやってる書評講座にお申し込みください(笑)。

(聞き手・柳瀬徹 @cockeye246

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いかがでしたでしょうか?

レビュアー、その他のプロフェッショナルな読者が、発売前の書籍のゲラをデジタル端末で読めるサービス"NetGalley"、ぜひ使ってみてください!

詳細はこちら→NetGalley(https://www.netgalley.jp/)

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