書評

『八朔の雪―みをつくし料理帖』(角川春樹事務所)

  • 2019/06/16
八朔の雪―みをつくし料理帖 / 高田 郁
八朔の雪―みをつくし料理帖
  • 著者:高田 郁
  • 出版社:角川春樹事務所
  • 装丁:文庫(271ページ)
  • 発売日:2009-05-18
  • ISBN:4758434034

空腹時は御法度の人情本

空腹時に読むと生唾(なまつば)がわいてくる。ぴりから鰹田麩(かつおでんぶ)、とろとろ茶碗(ちゃわん)蒸し、ほっこり酒粕(さけかす)汁……なんとも魅惑的な料理が次々登場。

奉公していた大坂の料理屋が火事で焼けたため、江戸に出てきて神田の「つる家」の調理場に立つこととなった18歳の澪(みお)。だが上方料理は江戸っ子にはなかなか受け入れてもらえない。東西の味覚の違い、ライバル店の登場に戸惑いながらも奮闘する姿が描かれる。

刊行当初から書店員たちの熱烈な支持を得て、着実に版を重ねてきた。「週刊朝日」の「2009年歴史・時代小説ベスト10」、「一個人」の「2009年度最高に面白い本大賞!」文庫・時代部門、「週刊文春」の「第2回R―40本屋さん大賞」文庫部門で1位を獲得する人気ぶり(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2010年)。読者層は30~60代がメーンで女性が6割強だ。

なによりお人よしだが気丈で、下がり眉がトレードマークの澪が魅力的。陽気な店主や謎の常連客など、脇を固める人々もいい味を出している。「天涯孤独な女の子が、周囲と支えあって苦難を乗り越えていく。そうした希望の光が感じられる作品を描きたいという気持ちが作者にあったようです」と担当編集者の鳥原龍平さん。澪が商売を成功させていく様も痛快だ。客にアピールするための創意工夫に感心してしまう。料理の描写も、ただ美味(おい)しそうというだけでなく、江戸の食事情が分かりやすく盛り込まれていて興味をかき立てる。登場する品はすべて著者が実際に作ったものばかりだそうで、巻末にレシピが載っているのがうれしい。実際に酒粕汁を作ってみたら、なんとも優しい味がした。

江戸の人情噺(ばなし)、グルメ本、女子のお仕事小説といった要素が合わさってのこのヒット。第2弾『花散らしの雨』もすでに13刷13万5千部。こちらは恋の予感という新要素が加わっている。3月には第3弾『想(おも)い雲』が刊行される。
八朔の雪―みをつくし料理帖 / 高田 郁
八朔の雪―みをつくし料理帖
  • 著者:高田 郁
  • 出版社:角川春樹事務所
  • 装丁:文庫(271ページ)
  • 発売日:2009-05-18
  • ISBN:4758434034

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2010年2月14日

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