前書き

『地図とグラフで見る第2次世界大戦』(原書房)

  • 2020/07/16
地図とグラフで見る第2次世界大戦 / ヴァンサン・ベルナール,ニコラ・オーバン
地図とグラフで見る第2次世界大戦
  • 著者:ヴァンサン・ベルナール,ニコラ・オーバン
  • 翻訳:太田 佐絵子
  • 監修:ジャン・ロペズ
  • 出版社:原書房
  • 装丁:大型本(195ページ)
  • 発売日:2020-05-23
  • ISBN-10:4562057580
  • ISBN-13:978-4562057580
内容紹介:
インフォグラフィックによる第2次世界大戦レファレンスの決定版! 膨大な資料から各国の数値データを集約し、あのとてつもなく大きな出来事をより深く理解し見直すために、物資、兵器、軍備、作戦、戦闘、損失などをグラフ化して比較。重要なポイントを俯瞰的かつ直感的に把握できる。
第2次世界大戦に関しては、すでに膨大なデータが集められています。そうしたデータはきわめて重要なものですが、それに意味を与え、多くの人々にそうしたデータの意味を正しく伝えるのは簡単なことではありません。
本書は、各国の一級資料を歴史家のアプローチで参照することによって、利用可能な大量のデータを取り上げ、できるだけ多くの人々に理解してもらえる形態を考案することは目指しました。そして選択されたのがグラフィックという形です。
データを視覚化することにより知識は新たなものとなり、戦争の大きな流れを、複雑な現象を簡単に理解できるようになりました。これまでばらばらだった戦争のさまざまな側面を関係づけることができたのです。


本書は、「物資と兵員」「兵器と軍隊」「戦闘と作戦」「損失と断層」という4部形式で、石油供給のバランス、歩兵師団とは何かといった約60の主要テーマを取り上げ、バルバロッサ作戦や、ヨーロッパにおける連合軍の兵站、アメリカ軍の太平洋戦域奪回、ナチの強制収容所のシステム、自由フランス軍の波乱に満ちた戦歴、砂漠の戦争など、第2次世界大戦のあらゆる内容を、わかりやすくオリジナリティーにあふれた美しいグラフィックで再考しています。
かつてない視覚的レファレンス『地図とグラフで見る第2次世界大戦』の「はじめに」を公開します。


第2次世界大戦のグラフィック

終戦からすでに多くの時間が流れたが、第2次世界大戦については、流れた時間以上に多くの書物が書かれてきた。
しかしこの書物の洪水も、史上最大の戦争の中心にいた、軍隊、省庁、行政機関、大使館、政府機関委員会、通信社、民間団体委員会、事務局、代表団、企業、シンクタンクなど、さまざまな機関が生み出した資料の海にはまったくおよばない。
戦争は、悲嘆と廃墟と苦悩をもたらしたが、何よりも多くの数字をもたらした。
1940年から1945年までの、アメリカのある石油会社の情報発信者リストは、これまで出版された書物には収められていないだろう。
戦後、このような大量の資料は、さまざまな観点からの新たな研究の基礎資料となった。そうした研究がわれわれの知識を豊かにし、そしてどこまでも発展させていくのである。

本書が望んでいるのは、第2次世界大戦をより深く理解する手助けをしたいということである。
地質学者のように、くめども尽きぬ資料の山に分け入って、ごく小さいけれど的確な標本をそこから持ち帰るために、われわれは冒険に乗り出した。
この標本を切り分け、検証し、分類して、ここに取り上げる53のテーマにまとめ上げた。
他の多くのものからの選択だったことは、言い添えておかなければならない。そのため、地理的領域や、重要な作戦がテーマからはずれるなど、戦争の多くの側面がわきに置かれることになった。アジア、アフリカ、中東は、必ずしもじゅうぶんに取り上げられているとはいえない。女性や工場労働者、中立国の人々、諜報活動、特殊作戦など、心残りの分野のリストは長い。
しかし、大量の資料を扱いやすくするために、どうしても決断が必要だった。3人の執筆者が資料から抜粋し、ひとりのデータデザイナーが加工し、すべてを3年間という期間でおこなった。

われわれが集めた何千、何万という資料は、魅力的で総括的かつ知的な表現形式で読者に示されなければならない。
この形式は、データデザイン——グラフィックと地図——の成果である。
本書ではニコラ・ギルラが担当したが、統計資料に生気を与えるその能力にあらためて感嘆させられた。経済や人口や軍事の資料は、熟練した手腕でグラフィックで表現されることによって、無味乾燥で抽象的な性格を失った。
とはいえ、われわれは次々に絵をめくっていく絵本を作ったわけではない。
これはまぎれもなく、読み物としての歴史書、だが新しい形の歴史書である。
本書には357の地図やグラフィックが描かれ、たくさんの情報が盛り込まれている。
読者は、さまざまな次元の理解や分析を見て、そこから選択することができる。
たとえば、航空機製造に関して、アングロ・サクソン諸国やソ連が、枢軸国より総じて優位にあるということで満足することもできるかもしれない。しかし、より深く見てみることによって、さまざまなセクターで、製造速度、技術の選択、連合国間での資材の融通など、各国の特殊性を把握することもできるだろう。そのようにして、初心者にも、最も手厳しい読者にも満足していただけるのではないかと思う。
そして、各テーマの最後に出典を示したが、それは、当然のことながら、世界各国の著作から厳しく選び抜いたものである。これについては、共同執筆者であるニコラ・オーバンとヴァンサン・ベルナールがおこなってくれたデータの発掘作業に敬意を表したい。欠落や矛盾もあるこれほど大量の統計資料の中で、けっして方位を見失わなかったのは、快挙といえるのではないかと思う。

本書は、たんなる要覧やデータバンクではない。
20世紀最大の恐怖についてそれぞれがもっている知識を深め、新たな発見をし、驚きを覚え、再検討するための資料でもある。
本書の中で「視覚化した」アメリカ、イギリス、ソ連の総生産量だけでなく、別の例にある、イギリスの戦いや大西洋の戦いでの損失比較を見ると、第2次世界大戦はたいした影響をもたらさなかったのだろうか、という問いに新たな答えを導き出すことになるかもしれない。
チャーチルは、その回想録の中で、自分自身と国家を偉大に見せるために、枢軸国が勝利するリスクを誇張していなかっただろうか。
司令部の組織図を見ると、全体主義の独裁体制はリベラルな民主主義体制より「必然的に」戦争に導きやすいとする考えを、再検討する余地があることがわかるだろう。
ほとんどどのテーマにおいても、同様の疑問がわいてくるはずである。
本書の始めから終わりまで、新たな手段で新たな光を当てた本書が、とてつもなく大きなできごとを見直す手助けとなればと思う。

[書き手]ジャン・ロペズ(歴史家)(太田佐絵子翻訳)
1952年生まれ。歴史家、ジャーナリスト。雑誌『戦争と平和(Guerre & Histoire)』編集長。独ソ戦に関する数多くの著作がある。ラシャ・オツメズリとの共著『ジューコフ――ヒトラーを破った男(Joukov: L'homme qui a vaincu Hitler」は高い評価を得ている。オリヴィエ・ヴィエヴィオルカとの共同監修による『第2次世界大戦の神話(Les mythes de la Seconde Guerre mondiale)』のほか、『ヒトラー最後の100日間(Les Cent Derniers Jours d'Hitler)』などの著作がある。
地図とグラフで見る第2次世界大戦 / ヴァンサン・ベルナール,ニコラ・オーバン
地図とグラフで見る第2次世界大戦
  • 著者:ヴァンサン・ベルナール,ニコラ・オーバン
  • 翻訳:太田 佐絵子
  • 監修:ジャン・ロペズ
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