後書き

『普通の若者がなぜテロリストになったのか: 戦闘員募集の実態、急進派・過激派からの脱出と回帰の旅路』(原書房)

  • 2022/11/07
普通の若者がなぜテロリストになったのか: 戦闘員募集の実態、急進派・過激派からの脱出と回帰の旅路 / カーラ・パワー
普通の若者がなぜテロリストになったのか: 戦闘員募集の実態、急進派・過激派からの脱出と回帰の旅路
  • 著者:カーラ・パワー
  • 翻訳:星 慧子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(444ページ)
  • 発売日:2022-09-26
  • ISBN-10:4562072032
  • ISBN-13:978-4562072033
内容紹介:
なぜ宗教に関係のない若者たちがテロ組織に加わったのか、その背景とは。そして彼らの帰還と社会復帰を支援する人々の模索は。
なぜ宗教に関係のない若者たちがテロ組織に加わったのか。ヨーロッパやアメリカからISなどの武装勢力に参入した若者たち、その親、送還・逮捕された若者たちの更生に関わる人々に取材した書籍『普通の若者がなぜテロリストになったのか』から訳者あとがきを公開します。

テロリズムまでの距離

テロリズムという言葉が生まれたのはフランス革命期の1790年代だそうだ。それ以降さまざまなテロ事件があり、日本でも1995年に地下鉄サリン事件が起きた。なかでも2001年のアメリカ同時多発テロ事件は世界を大きく変えてしまった。そしてテロの脅威というものが公共交通機関の運航から国際会議の開催にいたるまで、危機管理の項目に必ず入れられる要素となった。

本書はイスラム教の経典であるコーランについて上梓した作者が、今日ではテロリストの代名詞にされていると言っても過言ではないイスラム主義の過激主義者や白人至上主義者に着目し、彼らを過激化あるいは急進化させた原因を探り、そうなった人々を更生させ、急進化を防ぐ取り組みを取材したものである。

イスラム主義の過激主義者や白人至上主義者というと、日本に暮らす大多数の人々には遠い外国の問題のように思えるかもしれない。しかし西欧諸国に生まれ育った若者が急進化し、なかにはイスラム国の戦闘員となってシリアに渡り、命を落とすものまで出る背景を紐解くくだりを読んでいると、その根底にある危うさは現代の日本にも存在しているのだと感じられる。孤独感や自分が何者かわからない不安、社会への不満や絶望感を抱くと同時に、インターネットなどから偏向した情報だけを選択して突き進んでしまうと、テロリストにはならないまでも、ソーシャルメディア上での執拗な攻撃や、右傾化、ヘイトスピーチ、自死の選択など、さまざまな形で問題が現れる。

移民という言葉もマスコミの報道ではさかんに見聞きするが、現在の日本において一般的には身近な問題だと実感できない。しかし本書で取りあげられているベルギーの街の取り組みは、日本の地域社会が移民を受け入れる場合はもちろん、近隣のつながりが薄くなりつつある街を活性化する際のヒントとしてとらえることも可能だろう。

表面的には現代の日本とはあまり関係のなさそうな題材であるにもかかわらず、その根底に存在するものを見ると、わたしたちの社会が抱える問題と共通する点が多々あると実感できるのが本書のおもしろさのひとつだろう。

もちろん、イギリス、ベルギー、ドイツ、アメリカ、インドネシア、パキスタンなどの多様な国と地域において、イスラム主義、過激主義、白人至上主義などへ人々が急進化する背景、各地の事情を反映した脱急進化プログラム、移民との融和政策といった実例もそれぞれ非常に興味深い。

西欧やアジア諸国における急進化とそれを取り巻く事情に触れ、今日の社会について思いを広げる一助となれば幸いである。

[書き手]星慧子(訳者)
普通の若者がなぜテロリストになったのか: 戦闘員募集の実態、急進派・過激派からの脱出と回帰の旅路 / カーラ・パワー
普通の若者がなぜテロリストになったのか: 戦闘員募集の実態、急進派・過激派からの脱出と回帰の旅路
  • 著者:カーラ・パワー
  • 翻訳:星 慧子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(444ページ)
  • 発売日:2022-09-26
  • ISBN-10:4562072032
  • ISBN-13:978-4562072033
内容紹介:
なぜ宗教に関係のない若者たちがテロ組織に加わったのか、その背景とは。そして彼らの帰還と社会復帰を支援する人々の模索は。

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