コラム
鴻巣友季子「2017この3冊」毎日新聞|『新しい小説のために』佐々木敦『ペストの記憶』ダニエル・デフォー『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット
2017 この3冊
〈1〉『新しい小説のために』佐々木敦著(講談社・2916円)
〈2〉『ペストの記憶』ダニエル・デフォー著、武田将明訳(研究社・3780円)
〈3〉『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット著、東辻賢治郎訳(左右社・4860円)
〈1〉日本語小説の「私」の概念を更新する野心的な文学理論書。先行書を攫(さらい)いつつ、人称と視点の考察に紙幅を割く。近年多い「語り」に操作のある小説は、新しいというより回帰的であるとし、「全ての三人称小説は潜在的な一人称小説」と帰結する。翻訳者にも堪(たま)らない一冊。〈2〉ペストの蔓延(まんえん)するロンドンで、病苦に悶絶(もんぜつ)し、逃げ惑い、錯乱し、流離(さすら)う人々の克明な実録。話の筋が途切れたり、忘れた頃に復活したりするいびつで不穏な造りを訳者は、幾度も潜伏しては出現し、街をのみこんでいくペストの性質そのものだと指摘して目から鱗(うろこ)。
〈3〉猿人が直立歩行を始めて数百万年、歩行は思索と想像の原動力、推進力へと変化した。現代はWanderlust。芭蕉の「おくの細道」の英訳でD・キーンがこの単語をあてているのは、「そゞろ神の物につきて」の箇所だ。