読書日記

茅田砂胡『スカーレット・ウィザード』(中央公論新社)、奥泉光『鳥類学者のファンタジア』(集英社)、山田正紀『ミステリ・オペラ』(早川書房)ほか

  • 2018/04/21

楽しさ無限大の音楽SF『鳥類学者のファンタジア』

茅田砂胡の波瀾万丈豪快宇宙SFロマンス『スカーレット・ウィザード』全五巻(中公Cノベルズ・ファンタジア)★★★★が完結した。ヒロインは宇宙一の大財閥を率いる大富豪、ヒーローは銀河一の凄腕宇宙海賊。この超大型カップルが銀河狭しと暴れまくる宇宙冒険恋愛活劇は、キャサリン・アサロ《スコーリア戦史》をはじめとする海外の宇宙ロマンスSF群をはるかに凌ぐ一気通読の面白さ。英訳されればサファイア賞(ロマンスSFの年間最優秀作品賞)確実か。唯一の不満は敵側および組織の描写が弱いことで、その分、『デルフィニア戦記』の興奮に一歩及ばない。ところで、五巻のあとがきには、「宇宙船やロボットが出てくればSFかと思ってたら、どうもそうじゃないそうで、だからこの作品はSFではありません」(大意)という一節があり、2ちゃんねるSF板では、それをめぐって喧々囂々の大議論が勃発。作品評価は人それぞれだとしても、「これはスペースオペラであってSFでは
ない」的な発言が多かったのには驚いた。『レンズマン』も『スターウルフ』もSFじゃないと? 「宇宙船やロボットが出てくればSF」という感覚は圧倒的に正しいと思うし(それがSFとして優れているかどうかはまた別の問題)、西部劇(ホースオペラ)流の恋愛喜劇(ソープオペラ)を宇宙活劇(スペースオペラ)として上演する『スカーレット・ウィザード』は、移植型SFの要件を完璧に満たしている。『スカーレット・ウィザード』は疑問の余地なくSFです。「SFファンは今後五年間、『これはSFじゃない』と言うのをやめたほうがいい」というのは瀬名秀明の提言だが(「SFセミナー2001」の講演より)、実際問題、「これは(オレの考える理想の)SFじゃない」を、「これはSFじゃない」と短絡させるタイプのSFファンは相当に迷惑な存在だと思う。どうしても言いたいときは、せめて「これは本格SFじゃない」と言ってください。

スカーレット・ウィザード〈1〉 / 茅田 砂胡
スカーレット・ウィザード〈1〉
  • 著者:茅田 砂胡
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(329ページ)
  • 発売日:2014-05-23
  • ISBN:4122059569
内容紹介:
海賊王の異名を持つ一匹狼のケリーに、エネルギーと情報の二つの分野を支配するクーア財閥の総帥ジャスミンから仕事の依頼が舞い込んだ。だが話を聞きに出向いてみると-出されたものは『婚姻届』で…?しかも承諾か拒否かの決着は宇宙での追いかけっこで決めることに??かなり異色な恋愛小説が文庫版で登場!

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文芸誌《すばる》連載をまとめた奥泉光『鳥類学者のファンタジア』(集英社)★★★★☆は、現代の女性ジャズピアニスト(自称〝黄昏の女バッパー〟)が一九四四年のベルリンにタイムスリップする時間SF/音楽SF巨篇。『「吾輩は猫である」殺人事件』『グランド・ミステリー』と併せて、さしずめ奥泉版「時と人」三部作か。

今回は前二作と比べてジャンルSF色が強く、タイムトラベルもののお約束的なネタもサービス(武富士のポケットティッシュをめぐる騒動が爆笑)。焦点は、オカルティズムに傾斜したナチスドイツと神霊音楽協会が巡らす大陰謀。オルフェウスの音階、宇宙オルガン、フィボナッチ音律、ピュタゴラスの天体、ロンギヌスの石……とオカルト/伝奇系の魅惑的なモチーフが大量投入され、ついにはスティーヴン・バクスターばりのハードSF的解釈まで登場して腰を抜かすんだけど、ヒロインはその説明をあっさり聞き流す。要するに、SF読者にウィンクはしてみせるものの、ジャンルの文法には従わないのが奥泉流(従っていれば、キム・スタンリー・ロビンスン『永遠なる天空の調』を超える宇宙的音楽SFの傑作になっていたかも)。およそSFの主人公には向かない性格のヒロインだから当然ですが、その分、物語は非常に軽やかで、こんなに楽しく読める小説も珍しい。

鳥類学者のファンタジア / 奥泉 光
鳥類学者のファンタジア
  • 著者:奥泉 光
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(755ページ)
  • 発売日:2004-04-01
  • ISBN:408747688X
内容紹介:
「フォギー」ことジャズ・ピアニストの池永希梨子は演奏中に不思議な感覚にとらわれた。柱の陰に誰かいる…。それが、時空を超える大冒険旅行の始まりだった。謎の音階が引き起こす超常現象に導かれ、フォギーはナチス支配下、1944年のドイツへとタイムスリップしてしまう-。めくるめく物語とジャズの魅力に満ちた、ファンタジー巨編。山下洋輔作曲のオリジナルテーマ曲楽譜も特別収録。

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パパゲーノという名の猫が道案内する『鳥類学者…』に対して、山田正紀の書き下ろし大作『ミステリ・オペラ』(早川書房)★★☆には、人間のパパゲーノが登場する。こちらも時間SF的な仕掛けがあり、オペラ『魔笛』を焦点に、一九三八年の満州と一九八九年の東京を自在に行き来する。材料だけ取り出せば『鳥類学者…』と驚くほど共通点が多いが、料理法は正反対(ついでに可読性も正反対)。あくまで本格ミステリの枠組みで書かれたこの小説では、多世界解釈に基づくSF的論理がミステリ的論理で再解釈される。逆説めいた言い方になるが、SFがミステリに敗北するその瞬間には、優れてSF的なセンス・オブ・ワンダーがある。それにしても(小説構造上の要請とはいえ)冗長性が高すぎるのが難点[のちに、第2回本格ミステリ大賞と第55回日本推理作家協会賞長篇部門を受賞]。

ミステリ・オペラ  ) / 山田 正紀
ミステリ・オペラ )
  • 著者:山田 正紀
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(602ページ)
  • 発売日:2005-08-25
  • ISBN:415030811X

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小林泰三『AΩ(アルファ・オメガ)』(角川書店)★★★☆は、著者初の本格SF長篇。乗客全員が死亡した飛行機事故の凄惨な死体置き場から始まる冒頭こそホラー風だが、おたく世代の読者なら、主人公の名前(諸星隼人)を見ただけで怪しいと気づくはず。果たせるかな、第一部後半では謎のプラズマ生物が登場、宇宙空間を舞台にハードな描写が続く。科学的に正しいウルトラマン(スプラッタ風味)というか、大人の鑑賞に堪える変身ヒーロー物という趣向。ただし、見慣れた日常が崩壊し、キリスト教的アーマゲドンに突入して以降は、マキャモン『スワン・ソング』や山田正紀『ナース』を思わせる善悪の戦い(と区別のつかない話)に変貌する。どうせなら前半をもっと伸ばしてほしかった。なお、結末にはあっと驚く(SFファン向けの)謎解きあり。

ΑΩ―超空想科学怪奇譚 / 小林 泰三
ΑΩ―超空想科学怪奇譚
  • 著者:小林 泰三
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:文庫(501ページ)
  • ISBN:4043470061
内容紹介:
旅客機の墜落事故。乗客全員が死亡と思われた壮絶な事故現場から、諸星隼人は腕一本の状態から蘇った。一方、真空と磁場と電離体からなる世界で「影」を追い求める生命体"ガ"は、城壁測量士を失い地球へと到来した。"ガ"は隼人と接近遭遇し、冒険を重ねる…。人類が破滅しようとしていた。新興宗教、「人間もどき」。血肉が世界を覆う-。日本SF大賞の候補作となった、超SFハード・アクション。

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野尻抱介『ふわふわの泉』(ファミ通文庫)★★★☆は、クラーク『楽園の泉』のお気楽コメディ版。もっとも、高校の実験室で驚異の新物質ふわふわが偶然誕生する冒頭は『宇宙のスカイラーク』だし、それを利用したコミューンが国家と衝突するあたりはライバー「ビート村」風。ジャンルSFの歴史をなぞるように進んで『楽園の泉』までたどりつき、さらには地球外知性まで登場する。科学おたくの女子高生(眼鏡っ娘)社長という一点突破で全面展開する、驚異のハイスピード本格SFだ。

ふわふわの泉 / 野尻 抱介
ふわふわの泉
  • 著者:野尻 抱介
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(256ページ)
  • 発売日:2012-07-24
  • ISBN:4150310742
内容紹介:
浜松西高校化学部部長・浅倉泉の人生の目標は"努力しないで生きること"。文化祭を前に泉は、ただ一人の部員・保科昶とフラーレンを生成する化学実験を行なっていた。そのとき学校を雷が直撃!実験失敗と落胆する泉の眼前には空気中に浮かぶシャボン玉のような粒子が生まれていた。ダイヤモンドより硬く空気より軽いその物質を泉は"ふわふわ"と名づけ、一儲けしようと考えるのだが…伝説の星雲賞受賞作、ついに復刊。

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ブライアン・オールディス『スーパートイズ』(中俣真知子訳/竹書房)★★★は、英国で四月に出たばかりの最新短篇集。一九六九年発表の「いつまでもつづく夏」はこれが三度目の邦訳だが(ちなみに本邦初訳は《SFの本》8号掲載の「スーパーおもちゃの長い夏」で、訳者は当時まだ大学生だった山形浩生。二度目は『ザ・キューブリック』所収の望月明日香訳「古びた特製玩具」)、それを除けば、過去七年間に書かれた本邦初訳の新作ばかり全二十一篇を収録する。せっかくオールディスの短篇集を出すんならベスト集成を編んでくれればよかったのに。とにかく「スーパートイズ」三部作(映画「A.I.」原作)さえ入ってれば、あとはなんでもいいってことですか。みじんもオールディスらしくないこのSF寓話三部作以外は、陰鬱な皮肉とユーモアに満ちた、いかにも偏屈老人風のとりとめもない語りが特徴。SF色が薄いものにはいぶし銀の話芸が楽しめる渋い秀作もあるが、この翻訳からではやや伝わりにくい。

スーパートイズ / ブライアン オールディス
スーパートイズ
  • 著者:ブライアン オールディス
  • 出版社:竹書房
  • 装丁:文庫(289ページ)
  • ISBN:4812407826
内容紹介:
近未来の物語。さる先進国では人口過密を避けるため、出産には政府の許可が必要とされた。デイヴィッドは親となる権利を持たない夫婦のために開発された子供型の人工知能(A.I.)である。だが、その事実をデイヴィッドは知らない。それでもスウィントン夫人をママとして心から愛し、クマのテディに慰め… もっと読む
近未来の物語。さる先進国では人口過密を避けるため、出産には政府の許可が必要とされた。デイヴィッドは親となる権利を持たない夫婦のために開発された子供型の人工知能(A.I.)である。だが、その事実をデイヴィッドは知らない。それでもスウィントン夫人をママとして心から愛し、クマのテディに慰められながら、自分はホンモノだと信じ続ける姿が読む者に涙を誘う。「ねぇ、テディ。どうしてママは僕のことを愛してくれないのかなぁ?…僕はこんなにもママのことを愛しているのに…」同名の単行本から、映画原案となった表題の『スーパートイズ』三部作を始め、近未来を描いた短編10作品を厳選収録。

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【この読書日記が収録されている書籍】
21世紀SF1000  / 大森 望
21世紀SF1000
  • 著者:大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(591ページ)
  • 発売日:2011-12-07
  • ISBN:4150310521
内容紹介:
21世紀の到来とともに、ふたつの公募SF新人賞が新人作家を続々輩出し、新たなSF叢書"ハヤカワSFシリーズJコレクション"と"リアル・フィクション"がジャンルの中核を形成、日本のSF出版は充実の時代を迎えた-。月刊書評誌『本の雑誌』連載の「新刊めったくたガイド」から、2001年〜2010年のSF時評を集成。21世紀最初の10年に刊行された主要SF作品1000点を網羅した、現代SFガイドブックの決定版。

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初出メディア

本の雑誌

本の雑誌 2001年7月号

読みたい本に、きっと出会える。本を読みたくなる情報や書評がいっぱい。

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