書評

『マヂック・オペラ――二・二六殺人事件』(早川書房)

  • 2017/08/24
マヂック・オペラ --二・二六殺人事件  / 山田 正紀
マヂック・オペラ --二・二六殺人事件
  • 著者:山田 正紀
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:単行本(466ページ)
  • 発売日:2005-09-22
  • ISBN-10:4152086718
  • ISBN-13:978-4152086716
内容紹介:
二・二六事件前夜。置屋の密室で芸者が刺殺された。詳細は「“乃木坂芸者殺人事件”備忘録」と縊死した囚人の手による「感想録」に綴られていた。“検閲図書館”黙忌一郎の依頼で調査を始めた特高… もっと読む
二・二六事件前夜。置屋の密室で芸者が刺殺された。詳細は「“乃木坂芸者殺人事件”備忘録」と縊死した囚人の手による「感想録」に綴られていた。“検閲図書館”黙忌一郎の依頼で調査を始めた特高警察の警部補が遭遇する奇怪な出来事…。黙が追いかけたドッペルゲンガーとは?昭和維新の影に潜む恐るべき陰謀とは?『ミステリ・オペラ』に続き、昭和史を探偵小説で描く“オペラ三部作”の第二弾。
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

山田正紀マヂックで二・二六事件の驚くべき“真相”が明らかに!

二〇〇五年の各種ベストテンものの集計が終わった頃に出ちゃうんだもん(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2016年1月)。品が良すぎるとはこのことなんですの。なのでオデッ、来年の投票時期までこの人品卑しからざる傑作の存在を忘れてはいけないよ!

いや、何がって、山田正紀の『マヂック・オペラ』。日本推理作家協会賞&本格ミステリ大賞をW受賞した『ミステリ・オペラ』(早川書房)に続くシリーズニ作目のことなんですの。昭和十三年の満州で五族共和を象徴するオペラ「魔笛」を撮影する一団が巻き込まれる連続殺人事件と、半世紀後の平成元年に「宿命城殺人事件」と名づけられた文書を見つけ、平行世界を夢みるようになる女性の物語が虚実の狭間で交差する、大変トリッキーな物語だった前作に対し、今回は二・二六事件を背景として、これまたウルトラ・アクロバティックな話になっておりますの。

二・二六事件前夜、置屋で芸者が刺殺される。その詳細を綴ったのが、取り調べ係官による「乃木坂芸者殺人事件備忘録」と、刑務所内で縊死した囚人が残した「感想録」。特高警察の警部補・志村は、シリーズ探偵である検閲図書館(なぜそう呼ばれるのかは、読めばわかるのでご安心召されよ)・黙忌一郎に命じられ、二つの記録を読まされるのだが――。

「なぜ、特高である自分が、本来の任務とは何の関係もなさそうな記録を読まなければならないのか」と疑問を抱く志村同様、読者もまた物語中盤まではたくさんの「?」を頭の中に蓄えながら読み進めることになります。映画「押絵と旅する男」に登場する芥川龍之介と江戸川乱歩にそっくりな二人の男は何者なのか? 置屋で殺された芸者の自称情夫であり、思想犯として小菅刑務所に入れられた真内伸助が綴る「感想録」中に出てくる、萩原朔太郎の弟・恭次郎がこの事件の中で果たす役割とは? 怪人二十面相のように誰にでもそっくり成り変わることのできる男の正体は? そして、その男を操る者の本当の狙いとは?

黙忌一郎の依頼で、調査を始めた志村が遭遇する奇怪な出来事の数々。密室殺人、ドッペルゲンガーといったギミックを駆使する謎めいた物語の中に、江戸川乱歩、芥川龍之介、小林多喜二、阿部定といった実在の人物を効果的に配し、二・二六事件のあっと驚く”真相”を明らかにする手さばきは、まさにマヂックそのもの。江戸川乱歩の大失敗作として有名な『猟奇の果』を、換骨奪胎してみせる大技も見事に決まった、大きな骨柄の本格ミステリーにして歴史SFになっているのです。乱歩ファンなら読まなきゃ!

【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN-10:4054038727
  • ISBN-13:978-4054038721
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

マヂック・オペラ --二・二六殺人事件  / 山田 正紀
マヂック・オペラ --二・二六殺人事件
  • 著者:山田 正紀
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:単行本(466ページ)
  • 発売日:2005-09-22
  • ISBN-10:4152086718
  • ISBN-13:978-4152086716
内容紹介:
二・二六事件前夜。置屋の密室で芸者が刺殺された。詳細は「“乃木坂芸者殺人事件”備忘録」と縊死した囚人の手による「感想録」に綴られていた。“検閲図書館”黙忌一郎の依頼で調査を始めた特高… もっと読む
二・二六事件前夜。置屋の密室で芸者が刺殺された。詳細は「“乃木坂芸者殺人事件”備忘録」と縊死した囚人の手による「感想録」に綴られていた。“検閲図書館”黙忌一郎の依頼で調査を始めた特高警察の警部補が遭遇する奇怪な出来事…。黙が追いかけたドッペルゲンガーとは?昭和維新の影に潜む恐るべき陰謀とは?『ミステリ・オペラ』に続き、昭和史を探偵小説で描く“オペラ三部作”の第二弾。

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初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2006年1月21日

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

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