書評
『赤く染まる木々』(早川書房)
差別と弾圧、上塗りされる歴史
「赤く染まる木々」とは、白人の差別主義者らに黒人たちが吊(つ)るされた血塗られた木のことだ。原題はシンプルにThe Trees。しかしいまや黒人文学の旗手となったエヴェレットの名と読みあわせたとたん、アメリカ読者の多くは内容を察知するだろう。鋭利で仮借ない米国批判に圧倒されつづけた。エヴェレットは最新作『ジェイムズ』で文学賞を総なめにしたが、その前作『赤く染まる木々』までは(良質な)独立系小出版社から刊行されていた。しかしこれが作者の最高傑作であることは明らかだ。
物語は、南部ミシシッピ州マネーで起きた白人男性の殺人事件で幕を開ける。このジュニア・ジュニア・ミラムの遺体の横には、切断された彼の睾丸(こうがん)を手にした黒人男性の死体があった。
まもなく死体安置所から黒人男性の遺体だけが消えてしまう。じきにミラムのいとこウィート・ブライアントが殺され、隣には同じ黒人男性の死体が見つかる。驚いたことに、この黒人男性の顔は、一九五五年に白人の兄弟にリンチ(私刑)で殺され川に投棄されたエメット・ティルという実在の黒人少年にそっくりだった。兄弟のうち弟の妻キャロリンは、ティルが自分に口笛を吹き体を触ってきたと主張していたのだ。兄弟は無罪となり、私刑は正当化された。
ミラムとウィートはこの兄弟の末裔(まつえい)だと判明するが、ブライアントの名でピンと来た読者もいるかもしれない。そう、キャロリン一家の姓である。それどころか、本書に証言者として出てくる被害者の母グラニーCはまさにキャロリンその人なのだ。本作では、かつて虚偽証言をしたことを悔いる一面を見せる。
黒人少年の亡霊が甦(よみがえ)って復讐(ふくしゅう)を果たしているのだろうか? 黒人の刑事エドとジムの捜査の鍵となるのが、ママZという一〇五歳の高齢女性が営々とまとめてきたリンチの事件簿だ。それは彼女の父が白人らのリンチで殺害された一九一三年に始まっていた。
一九一三年と言えば、エメット・ティル事件に先立つこと四〇年余り、南部州ジョージアでユダヤ人の服役囚が刑務所から拉致され木に吊るされた「レオ・フランク事件」を思わずにはいられない。クー・クラックス・クランはこの事件を機に、黒人だけでなくカトリック教徒、移民、外国人、共産主義者などを差別し排斥する第二次運動を展開するに至ったとされる。本作に登場する牧師で検視官のフォンドルはクランの代表者であり、ミラムとウィートも「骨の髄までどこまでもクラン」だったと記されている。
殺人事件の連鎖は止まらず、しかし死体の隣に現れる死体は黒人だけでなく白人やアジア人の場合も出てくる。クランの、いや、当時のアメリカのWASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)による排外精神の犠牲者たちだろう。それは現代のアメリカに接続している。
終盤には、米国の奴隷制度を正当化し、黒人と中国人とインディアン(原文ママ)をやっつけると豪語する大統領演説が挿入される。一方、ママZたちは粛々と抵抗の計画を進めている。
差別と弾圧の歴史は消えず、むしろ上塗りされている。本書はその二重写しをミステリの意匠を借りて凄烈(せいれつ)に突きつけてくる。
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