書評
『かみさまからのおくりもの』(こぐま社)
おかあさんへの贈り物
『かみさまからのおくりもの』は、息子の誕生のお祝いにいただいたものだった。赤ちゃんが生まれると、神様がひとりひとりに贈(おく)り物をくださる。それを天使が運んでくる……というとてもシンプルな内容だ。
絵本には五人の赤ちゃんが登場し、それぞれ順番に贈り物が運ばれてくる。ほっぺのあかい赤ちゃんには「よくわらう」、大きい赤ちゃんには「ちからもち」、泣いている赤ちゃんには「うたがすき」、よくうごく赤ちゃんには「よくたべる」、すやすや寝ている赤ちゃんには「やさしい」。
子どもが生まれたばかりのときには、実はそれほど印象に残らない絵本だった。どれも、ふむふむと頷(うなず)けたけれど、まあ当たり前のことで、なにか特別なことが書かれているようには感じなかった。
それは、私が母親として初心者で、まさに初心でいっぱいだったからだと思う。とにもかくにも、元気で生まれてきてくれて、ありがとう! 子どもが息をしているだけで、幸せだったし、感謝もした。
けれど人間というのは欲深いもので、「息をしているだけで嬉しい」などという初々(ういうい)しい感覚はだんだん薄れ、「はやくあるく」だの「じょうずにはなす」だの「えがうまい」だのを、神様からの贈り物として期待しはじめる。そのうちこれが「成績優秀」「スポーツ万能」「眉目秀麗(びもくしゅうれい)」「リーダーシップ」などになってゆくのかもしれない。
来月、息子は四歳になる。久しぶりにこの絵本を一緒に読んでみると、心が洗われるようだった。「よくわらう」や「うたがすき」を「おくりもの」として感じられる心を、忘れずにいたいものだなあと思う。
ただ読んでやるだけでは、物足りなさそうなので、「たくみん(息子の愛称)は、かみさまから、なにをもらったかな?」と聞いてみた。
「うーんとね、げんきでしょ、かっこいいでしょ、おどりがじょうずでしょ……」。意外と自信家だ。一番うしろに白いページがあるので、そこに書き出してやると、夢中になってつけ加えてくる。「やさしいでしょ、よくねるでしょ、ごほんがすきでしょ……」
「いっぱいあるねえ。じゃあ、おかあさんはなにをもらったと思う?」
「やさしい」とか「りょうりがじょうず」とかを密(ひそ)かに期待していたのだが、息子は自分のときとは違って、なかなか口を開かない。
「おかあさん、じつは『たんかがじょうず』をもらったんだよ」と冗談(じょうだん)めかして言うと、「それは、しってる」と軽く受け流されてしまった。そしてしばらくして、息子はこう言った。
「わかった! おかあさんがもらったのは『たくみんが、うまれる』じゃない?」
この答えを、私は一生忘れないだろう。もしかしたら、これこそが、この絵本が伝えたいことだったのかもしれない、と思った。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2007年10月24日
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