書評

『いけちゃんとぼく』(角川書店(角川グループパブリッシング))

  • 2023/11/30
いけちゃんとぼく  / 西原 理恵子
いけちゃんとぼく
  • 著者:西原 理恵子
  • 出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 装丁:文庫(95ページ)
  • 発売日:2011-11-25
  • ISBN-10:4041000025
  • ISBN-13:978-4041000021
内容紹介:
いけちゃんはね、うれしいとふえるの。こまると小さくなるの。あったかいとよくふくらむのよ-。うれしいときもかなしいときも、いつもそばに寄り添ってつぶらな瞳で見守ってくれるふしぎな生き… もっと読む
いけちゃんはね、うれしいとふえるの。こまると小さくなるの。あったかいとよくふくらむのよ-。うれしいときもかなしいときも、いつもそばに寄り添ってつぶらな瞳で見守ってくれるふしぎな生きもの、いけちゃん。そんないけちゃんがぼくは大好きで-。少しずつ大人の階段をのぼっていく少年期のやわらかな心とみずみずしい風景。かつてこどもだった大事なあなたに贈る、西原理恵子初の叙情絵本。

いけちゃんとぼくと息子と私

西原理恵子さんの『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(角川文庫)を読んで、これは将来、息子にもぜひ読ませてやりたいと思った。「仕事」とか「働く」ということを考えはじめるような年頃に、知っておいてほしいこと、ヒントになるようなことが、ぎっしり詰まっている。キレイごとじゃなくて、でも汚い話じゃなくて、きっちりお金の大事さが伝わってくる、そんな一冊だ。

しかし、とりあえずまだ幼稚園児なので、これは本棚に置いておくとして、息子と本屋さんをぶらぶらしていたら『いけちゃんとぼく』という絵本を見つけた。最近映画化されたそうで、原作のこの絵本も、山盛りで置いてあった。

「この人のご本、お母さん大好きなんだよー。いっちょ絵本も読んでみるか」と言うと、インパクトのある表紙に誘われて、息子ものってきた。

たいていの絵本、私は先回りして一読してから息子に読んでやるのだが、今回は期待が大きく、息子も私も初めてという状態でページをめくってみることにした。

ナゾの生き物「いけちゃん」と「ぼく」の世界を、親子で最初はおずおずと、そしてだんだんどっぷりと、体験してゆく感じ。特に、笑う場面でのタイミングが、同じなのがいい。あらかじめ読んでいると、どうしても「ここ、笑うぞ」と思って息子を観察してしまうのだが、今回は私も同時に思いっきり噴き出した。その、連帯感。

くまぜみを竹の中に入れたり、とんぼの頭を万華鏡の中に入れたり、という場面が息子は一番のお気に入り。やっぱり男の子だ。ぼくといけちゃんの様子が、ハンパなくおもしろくて、何回も真似っこで再現しては笑いころげていた。

実は虫たちへの所業は、いじめられたぼくが、復讐(ふくしゅう)の練習のためにやっていること。だけど結局、気持ちは晴れない。そのとき、いけちゃんは言う。

おとなになって すきな人ができたら このことをはなすといいよ。すきなひとが わらって くれるよ。

げらげら笑っていた我々親子は、ここでちょっと、しんと静かな気持ちになる。

ぽろっぽろっとこぼれるいけちゃんの一言は、不思議だ。夕暮れに家路を急いでいるときみたいに、少し寂しくて、なんだか懐かしくて、わけもなく泣きたくなるような、そんな気持ちを運んでくる。

いけちゃんが何者なのか、それは最後にわかる(ここは、むしろ大人がうるっとなるところ)。息子は最初「グミのおばけかな」と、見た目で言っていたが、「もう男の子が おわっちゃったんだよ」といけちゃんがぼくに別れを告げる場面では「いやーっ。行かないで」と私に抱きついてきた。いけちゃんは、おかあさん、というふうに感じていたようだ。

  たんぽぽの綿毛を吹いて見せてやる いつかおまえも飛んでゆくから

【単行本】
いけちゃんとぼく / 西原 理恵子
いけちゃんとぼく
  • 著者:西原 理恵子
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:ハードカバー(1ページ)
  • 発売日:2006-09-01
  • ISBN-10:404854053X
  • ISBN-13:978-4048540537

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【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名… もっと読む
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

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いけちゃんとぼく  / 西原 理恵子
いけちゃんとぼく
  • 著者:西原 理恵子
  • 出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 装丁:文庫(95ページ)
  • 発売日:2011-11-25
  • ISBN-10:4041000025
  • ISBN-13:978-4041000021
内容紹介:
いけちゃんはね、うれしいとふえるの。こまると小さくなるの。あったかいとよくふくらむのよ-。うれしいときもかなしいときも、いつもそばに寄り添ってつぶらな瞳で見守ってくれるふしぎな生き… もっと読む
いけちゃんはね、うれしいとふえるの。こまると小さくなるの。あったかいとよくふくらむのよ-。うれしいときもかなしいときも、いつもそばに寄り添ってつぶらな瞳で見守ってくれるふしぎな生きもの、いけちゃん。そんないけちゃんがぼくは大好きで-。少しずつ大人の階段をのぼっていく少年期のやわらかな心とみずみずしい風景。かつてこどもだった大事なあなたに贈る、西原理恵子初の叙情絵本。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2009年7月30日

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