読書日記

とみさわ昭仁『無限の本棚 増殖版』(筑摩書房)、デルフィーヌ・ミヌーイ『シリアの秘密図書館』(東京創元社)、ミキータ・ブロットマン『刑務所の読書クラブ』(原書房)

  • 2018/08/04

なぜ本を集めるのか

人間は集めてしまう生き物である。「病膏肓(やまいこうこう)に入(い)る」という言葉があるが、コレクターというのはこの症状に陥った人々だ。病を極め尽くせば尊敬や名声を得られたりもしようが、大抵は途中で力尽きる。カネも場所も有限なのだ。

だが、〔1〕とみさわ昭仁『無限の本棚 増殖版-手放す時代の蒐集(しゅうしゅう)論』(ちくま文庫・929円)はその先へ行くことを考え抜き、行ってしまう。「蒐集原人」を自称するとみさわは、なぜ自分は集めるのか、そもそも集めるとは何か、果たして自分はモノを集めているのかと、集める行為と集められるモノについて自省と分析をひたすら深めていく。これはもはや思想書である。そして到達した答えは…エアコレクション!

同業者と話をしていると、知る人はみな彼をリスペクトしているのがわかる。理由の一端は本書を読むと見えるはずだ。

無限の本棚 増殖版 / とみさわ 昭仁
無限の本棚 増殖版
  • 著者:とみさわ 昭仁
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(339ページ)
  • 発売日:2018-03-07
  • ISBN:4480435050
内容紹介:
幼少より蒐集にとりつかれ、物欲を超えた“エアコレクション”の境地にまで辿りついた男が開陳する驚愕のコレクション論。文庫化にあたり大幅増補。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

同じ「集める」でも、〔2〕デルフィーヌ・ミヌーイ『シリアの秘密図書館-瓦礫(がれき)から取り出した本で図書館を作った人々』(藤田真利子訳、東京創元社・1,728円)は悲痛だ。「アラブの春」後、シリアは内戦状態に陥った。アサド政権に抵抗する人々は首都ダマスカス付近の町ダラヤに籠城したが、政府軍はダラヤを封鎖し殲滅(せんめつ)攻撃を仕掛けた。絶望的な状況の中、若者たちは書物に自由と希望を見いだす。破壊された町や家屋から本を掘り起こし、地下に粗末な図書館を造ったのだ。IS(「イスラム国」)も乗り込んで三つ巴(どもえ)になったところに、各国勢力の思惑までが絡んだシリア内乱。どちらに義があるのか断言できる自信はない。ただ、つまらない自己啓発書にさえ希望を見つけ出し抵抗の糧にした彼らの姿には真実を感じる。

シリアの秘密図書館 / デルフィーヌ・ミヌーイ
シリアの秘密図書館
  • 著者:デルフィーヌ・ミヌーイ
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:単行本(195ページ)
  • 発売日:2018-02-28
  • ISBN:4488003877
内容紹介:
シリア内戦下、ダマスカス近郊の町ダラヤでは、人々が政府軍に包囲されていた。一般にテロリストの町と報道されていたが、実際のところ彼らは自由を求める市民たちだった。砲撃に脅え、死と隣り合わせの過酷な日々。だがそんな過酷すぎる状況下でも、散逸した本を集めて地下に「秘密の図書館」を作った人々がいた――。本に希望を見出し、知識を暴力への盾として闘った人々を描く、感動のノンフィクション!

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〔3〕ミキータ・ブロットマン『刑務所の読書クラブ-教授が囚人たちと10の古典文学を読んだら』(川添節子訳、原書房・2,160円)は反対に、書物(文学)の無力さを露(あら)わにした珍しい本だ。四十代半ばの女性で精神分析学者・文学研究者のミキータが、強盗や殺人などの凶悪犯罪で死刑や無期懲役の判決を受けた囚人十数名を相手に開催した読書会の記録なのだが、彼女の思惑はことごとく外れる。

これはと選んだバロウズ『ジャンキー』はそっぽを向かれ、ナボコフ『ロリータ』は質の悪い変態野郎と一蹴される。読書に熱心に見えた囚人も、奇跡的に出所すると本など見向きもしなくなってしまう。読書が暇つぶしですらなかった彼らの現実に、ミキータは最後「私が差し出せるものは文学しかない」と絶望気味に漏らすのである。

刑務所の読書クラブ:教授が囚人たちと10の古典文学を読んだら / ミキータ・ブロットマン
刑務所の読書クラブ:教授が囚人たちと10の古典文学を読んだら
  • 著者:ミキータ・ブロットマン
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(296ページ)
  • 発売日:2017-12-18
  • ISBN:4562054654
内容紹介:
■■■■■■全米各紙誌絶賛!■■■■■■これほど「殺人」を実感できる人たちと『マクベス』を一緒に読んだことはなかった男性ばかりの刑務所で、女性教授がはじめた読書クラブ。壮絶な人生を歩んできた囚人たちは、古典文学を読んで何を思うのか。彼らはやがて、思いがけない視点から物語の核心へと近づ… もっと読む
■■■■■■全米各紙誌絶賛!■■■■■■これほど「殺人」を実感できる人たちと『マクベス』を一緒に読んだことはなかった男性ばかりの刑務所で、女性教授がはじめた読書クラブ。壮絶な人生を歩んできた囚人たちは、古典文学を読んで何を思うのか。彼らはやがて、思いがけない視点から物語の核心へと近づいていく。読書の常識を覆す驚嘆のノンフィクション=====================================読書クラブの囚人メンバーが読んだ全10作品=====================================『闇の奥』ジョゼフ・コンラッド著『書記バートルビー―ウォール街の物語』ハーマン・メルヴィル著『くそったれ! 少年時代』チャールズ・ブコウスキー著『ジャンキー』ウィリアム・バロウズ著『オン・ザ・ヤード』マルコム・ブラリー著『マクベス』ウィリアム・シェイクスピア著『ジキル博士とハイド氏』ロバート・ルイス・スティーヴンソン著『黒猫』エドガー・アラン・ポー著『変身』フランツ・カフカ著『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ著=====================================スーパーボウルの試合中継があれば課題書を読み忘れる。主人公の名前すら発音できない。「文学は囚人たちにとって何の役にも立たないのだろうか」死刑囚や終身刑囚たちを収容する重警備刑務所で、読書クラブを運営することになった女性教授は葛藤する。しかし、教授と囚人たちは回り道をしながらも、いつしか文学者も思いがけなかった視点から物語の核心へと近づいていく。孤独、虐待、裏切り、突然の死刑宣告――壮絶な人生経験から読み解く答えとは。そして変化は、囚人だけでなく教授自身の心にも現われ――。アメリカ、ジュサップ刑務所で開かれた読書クラブの二年半にわたる記録。

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 2018年7月

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