読書日記

安野光雅『安野光雅 自分の眼で見て、考える』(平凡社)、とみさわ昭仁『レコード越しの戦後史』(Pヴァイン)、ティラー・J・マッツェオ『イレナの子供たち』ほか

  • 2019/04/08
◆『安野光雅 自分の眼で見て、考える』安野光雅・著(平凡社/1200円)税別
著名人が自身の人生を語り下ろす、この「のこす言葉」シリーズはいい。第3弾は『安野光雅 自分の眼で見て、考える』。絵本作家、エッセイストでも知られる画家は、今年93歳だという。

1926年、島根県津和野生まれ。小学生の頃「不登校児」というのが意外。ただ、「絵描きになりたい」とずっと思っていて、その「一本の線を、くねくねと軌道修正しながら辿ってきて今がある」と語り口はユニークでユーモアがある。戦後、玉川学園園長・小原と運命の出会いをして、道が開けた。

激動の時代を生きぬいた者としてのさまざまな提言もある。日本の教育は、何でも数字や順位で評価する。「自分の頭で考えることが大事です」と言う。『旅の絵本』シリーズが下描きなし、というのは驚いた。旅をして、実物を見た自信が独自の風景画を生んだ。

モットーにする言葉が「雲中一雁」。雁(がん)は群れて飛ぶが、離れて一羽でも飛ぶ。「しょせん一人」という覚悟が著者を支えた。

安野光雅 自分の眼で見て、考える / 安野 光雅
安野光雅 自分の眼で見て、考える
  • 著者:安野 光雅
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:単行本(108ページ)
  • 発売日:2019-02-08
  • ISBN:4582741177
内容紹介:
世界的に高い評価と人気をもつ92歳の絵本作家が、今だから語る、実力と運に養われた92年の来し方と、独自の絵画論、心境の変化。

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◆『レコード越しの戦後史 歌謡曲でたどる戦後日本の精神史』とみさわ昭仁・著(Pヴァイン/税別1800円)

改元でますます遠ざかる「昭和」の切り口は幾つもあるが、終戦後から変容する社会を映し出したのはレコードではないか。とみさわ昭仁『レコード越しの戦後史』は、それを証明して見せる。

戦後復興、高度成長、ヒーローや花粉症と、事件や流行の陰に、つねに歌謡曲が流れていた。戦後復興を象徴する「東京タワー」が完成した昭和33年、「東京333米」が出た。数字は高さ。歌うはミラクル・ヴォイス。

著者は珍レコードコレクターとしても知られるが、その強みが随所で生きている。昭和47年に帰還した日本兵・横井庄一さん。「お帰りなさい横井さん」というレコードが出ていた。中国残留孤児の歌も多数紹介され、著者は背景にある日中国交問題をちゃんと押さえている。戦後史と向き合う姿勢は真摯(しんし)で、貫く骨は太い。

歌謡曲の時代が終わって、この本で連打されるような歌と時代が添い寝する関係も消えた。そのことを寂しがる私は時代おくれか。

レコード越しの戦後史 歌謡曲でたどる戦後日本の精神史 / とみさわ昭仁
レコード越しの戦後史 歌謡曲でたどる戦後日本の精神史
  • 著者:とみさわ昭仁
  • 出版社:Pヴァイン
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2019-02-27
  • ISBN:4909483209

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◆『イレナの子供たち』ティラー・J・マッツェオ/著(東京創元社/税別2800円)

ナチス占領下、多くのユダヤ人を救ったシンドラーは、映画にもなって有名。ティラー・J・マッツェオ『イレナの子供たち』(羽田詩津子訳)は、その女性版だ。福祉局勤務のポーランド人女性・イレナは、 ワルシャワのゲットーから、2500人ものユダヤ人の子供たちを救い出した。トラックの積み荷に隠し、あるいは下水道を使い、幼い命が生き延びた。彼女の勇気と行動力に感心するが、同時に、この計画に加わった多くの無名同志の存在も、本書では描かれる。瞠目(どうもく)のノンフィクション。

イレナの子供たち / ティラー・J・マッツェオ
イレナの子供たち
  • 著者:ティラー・J・マッツェオ
  • 翻訳:羽田 詩津子
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:単行本(326ページ)
  • 発売日:2019-02-28
  • ISBN:4488003907
内容紹介:
ポーランド人、イレナ・センドレル(1910~2008)は、第二次大戦中に2500人以上ものユダヤ人の子供たちを、木箱に隠したり、ゴミ箱にひそませたりしてワルシャワのゲットーから脱出させる救出活動をした人物で、彼女自身、ゲシュタポの拷問を受けたり、死刑宣告を受けたりもしたが一命をとりとめ、後年、ノーベル平和賞候補にまでなった。著者マッツェオがイレナの娘や、彼女に助けけられたユダヤ人たちへのインタビューから知られざる若き日の彼女の姿を生き生きと描き上げた感動的なノンフィクション。

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◆『鉄条網の世界史』石弘之・石紀美子/著(角川ソフィア文庫/税別960円)

石弘之・石紀美子『鉄条網の世界史』が面白い。居留地、収容所、戦地の前線と、外敵排除と暴力に加担する鉄条網。その歴史と使う人間の心理を、世界中を取材し明らかにした異色の世界史だ。フランスとアメリカでほぼ同時期に発明され、きわめてローテク、安価な商品として、またたくまに広がった。当初、開拓時代に家畜などを囲うため使われた。しかし、同時に先住民を締め出す暴力性を発揮し始める。分断が加速されていく世界の底に人類の冷酷さが潜むことを、鉄条網が教える。

鉄条網の世界史 / 石 弘之,石 紀美子
鉄条網の世界史
  • 著者:石 弘之,石 紀美子
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:文庫(304ページ)
  • 発売日:2019-01-24
  • ISBN:4044004544
内容紹介:
潜在能力を秘めたローテク兵器が、人間社会に苛烈な運命をもたらしている

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◆『ある若き死刑囚の生涯』加賀乙彦・著(ちくまプリマー新書/税別840円)

加賀乙彦『ある若き死刑囚の生涯』は、1968年、横須賀線爆破事件で死刑囚となった青年の話。医師でもある著者は、東京拘置所医務技官を務め、犯人と接見している。彼の生い立ちから書き起こし、事件に至る過酷な人生を描き出す。彼は獄中で、純多摩(すみたま)良樹のペンネームで多数の短歌を詠み、日記をつづり、信仰を持った。死と向き合う穏やかな日々。「鉄扉ひらく音に心のさわだちぬ処刑の部屋につづく朝露」は彼の歌。75年12月死刑執行。懸命な短い人生は我々に何を教えるのか。

ある若き死刑囚の生涯 / 加賀 乙彦
ある若き死刑囚の生涯
  • 著者:加賀 乙彦
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:新書(223ページ)
  • 発売日:2019-01-08
  • ISBN:4480683429
内容紹介:
キリスト者として、歌人として、生と死に向き合った死刑囚・1968年の横須賀線爆破事件の犯人純多摩良樹の葛藤や苦悩を描く。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2019年4月7日増大号

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