読書日記

ヘレン・トムスン『9つの脳の不思議な物語』(文藝春秋)、辻村深月『小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記』(小学館)ほか

  • 2019/03/30
握りこぶし二つ分ぐらいの大きさである「脳」に、宇宙に比す無限の謎と不思議がある。ヘレン・トムスン『9つの脳の不思議な物語』(仁木めぐみ訳)は、そのことを証明してくれる。

医学部出身の科学ジャーナリストで、ずっと脳に興味を持ち続けた著者は、世界中の奇妙な脳の持ち主を取材して回った。きっかけは、命令されたことに必ず従ってしまう人たちを知ったこと。「ナイフを投げろと言われればナイフを投げる」というのだ。

その他、生後9カ月より、これまでの人生のすべてを記憶している男。自宅のトイレからキッチンへ行こうとして迷子になる女性。荒くれた人生だったのが、動脈瘤(りゅう)破裂の手術後、虫も殺せない人になった等々、不思議すぎる脳たちが、次々と登場してくる。

著者は自ら十分に驚きながら、彼らの脳の中で一体何が起きているのかを、先端の脳科学研究の見地から探り、突き止める。自分でも思い通りにならない脳って何?

9つの脳の不思議な物語 / ヘレン・トムスン
9つの脳の不思議な物語
  • 著者:ヘレン・トムスン
  • 翻訳:仁木 めぐみ
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(317ページ)
  • 発売日:2019-01-30
  • ISBN:4163909648
内容紹介:
過去を何一つ忘れられない。他人の痛みを自分の肌でも感じる……。脳の「エラー」がもたらす奇妙な人生から、脳科学の最先端を描く。

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フォーク歌手の大塚まさじは、名曲「プカプカ」を世に送った「ザ・ディランII」でデビュー。ソロになって以後も日本全国でライブを続けてきた。私などフォーク小僧にとってレジェンドの一人。

これまで作ってきた歌の歌詞を集めたのが『歌詞集 月のしずく』。政治の季節が終わり、個人的な日常が「君」と「僕」の世界で歌になった。「こいのぼり」翻る町を「すてきな季節」に「ガムをかんで」歩けば「時は過ぎて」いく。これぞ大塚まさじの気分(カギカッコ内は曲名)。

また本書では、表紙画と題字を黒田征太郎、たっぷり収録された写真を糸川燿史、挿画を沢田としき、装丁をその妻沢田節子が担当。伝説的情報誌『プガジャ』を想起させるとともに、これは著者の人脈でもある。大阪の匂いがプンプンする作りだ。

最新アルバム「いのち」の表題作に「やりたいことがたくさんあった 人は死ぬから優しいのかな」とある。多くの同志を見送り、苦い省察が加わった新境地だ。

歌詞集 月のしずく / 大塚 まさじ
歌詞集 月のしずく
  • 著者:大塚 まさじ
  • 出版社:ビレッジプレス
  • 装丁:単行本(128ページ)
  • 発売日:2019-02-01
  • ISBN:4894922223

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公開中の映画ドラえもん最新作のノベライズが『小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記』。ふむふむ。えっ! 著者は辻村深月なの? じつは映画の脚本も辻村だった。本当に好きなんだ。月にはウサギがいると信じるのび太とともに、ドラえもんは秘密の道具と「どこでもドア」で月へワープ。空気も水も生み出し、知能あるウサギが生きる王国作りが行われる。そんな時、謎のスーパー転校生・月野ルカが現れて……。宇宙や月の天文学解説も随所にあって勉強になる。

小説「映画 ドラえもん のび太の月面探査記」 / 藤子・F・ 不二雄,辻村深月
小説「映画 ドラえもん のび太の月面探査記」
  • 著者:藤子・F・ 不二雄,辻村深月
  • 出版社:小学館
  • 装丁:単行本(254ページ)
  • 発売日:2019-02-07
  • ISBN:4093865299

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各種ミステリーベストテンの上位にランクインしたのが、ケイト・モートン『秘密』(上下、青木純子訳)だ。1961年、少女だったローレルが母による刺殺現場を目撃。被害者が不審者だったことで、母は正当防衛が認められたが、実は男を知っていた。2011年、死を目前にした母の過去に何があったかをローレルは調べ始め、第二次大戦中、ロンドンにいた母の「秘密」を嗅ぎ付ける。戦争を挟み、現在、過去、大過去が入り交じる迷宮の果てに、「秘密」のフタがとうとう開くのだ。

秘密〈上〉 / ケイト・モートン
秘密〈上〉
  • 著者:ケイト・モートン
  • 翻訳:青木 純子
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(359ページ)
  • 発売日:2019-01-30
  • ISBN:4488202071
内容紹介:
翻訳ミステリー大賞・読者賞ダブル受賞
少女ローレルは庭のツリーハウスから、見知らぬ男が現われ母ドロシーに「やあ、ドロシー、久しぶりだね」と話しかけるのを見た。そして母はナイフで男を刺したのだ。男は死んだが、ローレルは目撃したすべては話さず、事件は多発していた強盗事件のひとつとされ、母の正当防衛が認められた。50年後、女優となったローレルは、死の床にある母の過去を知りたく思う。古い写真に母と映る美しい女性は誰? あの事件は何だったのか?

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ミステリーは犯罪を生んだ背景となる社会を描く。各時代がそこに刻まれている。古橋信孝『ミステリーで読む戦後史』は、そのことを周密に分析し、報告する。『獄門島』で金田一耕助が恋した娘は、復員する男を待つ。ここには旧家の婚姻制度が色濃く反映されている。医療ミス問題をいち早く取り上げた『白い巨塔』『人間の証明』に登場する不良息子を、著者は安保時代に発生した新しい若者像と重ねる。知的障害者を持つ家族を描いた『絆』などは、本書で新たな読み方が提示される。

ミステリーで読む戦後史 / 古橋 信孝
ミステリーで読む戦後史
  • 著者:古橋 信孝
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(287ページ)
  • 発売日:2019-01-17
  • ISBN:4582859011
内容紹介:
敗戦後の復興と公害問題、安保闘争、少年犯罪など、日本が時代ごとに抱えていた社会問題を、ミステリーを通じて浮き彫りにしていく。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2019年3月17日増大号

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