読書日記

『ジョン・ランプリエールの辞書』(東京創元社)

  • 2024/02/01
ジョン・ランプリエールの辞書 / ローレンス・ノーフォーク
ジョン・ランプリエールの辞書
  • 著者:ローレンス・ノーフォーク
  • 翻訳:青木 純子
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(496ページ)
  • 発売日:2006-05-27
  • ISBN-10:4488202039
  • ISBN-13:978-4488202033
内容紹介:
18世紀、ジャージー島。ジョンが想いを寄せる美しい子爵家令嬢の水浴姿を見てしまった父が、猟犬にズタズタに噛み殺される。それは、彼が直前に読んだギリシア神話の物語をなぞるかのような光景であった。神経症を疑う彼は、医師に療法として勧められた固有名詞辞書の執筆を始める。だが、またしてもギリシア神話をなぞる惨劇に遭遇することに…。サマセット・モーム賞受賞作。
一八世紀、イギリス自治領チャンネル諸島のひとつジャージー島。学究の徒ジョン・ランプリエールは子爵家の美少女に恋い焦がれているのだが、ある日、彼女の水浴姿を見てしまったジョンの父が猟犬に嚙み殺されるという事件が起きる。ギリシャ神話の一挿話――ディアナの水浴姿を覗き見たために八つ裂きにされたアクタイオンのように。

そして、舞台はロンドンへ。遺産手続きのために当地を訪れたジョンは、弁護士から渡された父の遺書を読んで首をひねる。「遺された書類は全部焼き捨て、今後一切関わらないほうがいい」。セプティマスという友人を得て様々な社交場に出入りしながらも、書類が示唆する謎が頭から離れないジョン。やがて、彼は有能な弁護士の力を借りて、ビッグ・クエスチョンの核心に迫っていく。

産業革命が起こり、喧噪を誇るロンドン。隆盛を極める東インド会社。その一方で、アジアの地からもたらされる安価な綿布が国内の織物製品の需要を低下させ、失業者が増加して起こる市民暴動。隣国フランスでは絶対王政の陰りが見え――というジョンが生きていた時代背景に、一七世紀、フランスのラ・ロシェルで起こった、旧教徒による凄惨なユグノー(新教徒)弾圧の歴史をリンクさせた壮大なバロック歴史ミステリーなのだ。

物語の中でも大きな意味を持つ『古典籍固有名詞辞典』を著した主人公のジョンをはじめ、実在の人物を多々登場させることで虚構世界に史実を織り込み、虚実を判然とさせないトリッキーな語り口に陶然。自動人形やら、古代に棲息した巨大恐竜の化石化した遺骸によって形成された全長三十キロもの地下迷路やら、本筋を彩るガジェットたちがまた魅力的。往事のロンドンの風俗や政治、産業などを生き生きと立ち上がらせる闊達な筆力といい、謎を解く鍵となるギリシャ・ローマ神話世界の造詣の深さといい、全てに舌を巻く傑作なのだ。すいすい読める易しい本ではないけれど、読了した暁の充実感は半端じゃない。だから、レッツ・トライ!

【下巻】
ジョン・ランプリエールの辞書 / ローレンス・ノーフォーク
ジョン・ランプリエールの辞書
  • 著者:ローレンス・ノーフォーク
  • 翻訳:青木 純子
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(480ページ)
  • 発売日:2006-05-27
  • ISBN-10:4488202047
  • ISBN-13:978-4488202040
内容紹介:
ジョンの祖先が残した東インド会社にまつわる不可解な合意書。航行中に消息を絶った帆船の謎。そこに秘められた意味を彼に示唆した不遇の事務員ジョージまでもが、長年の宿願の成就を目前にし… もっと読む
ジョンの祖先が残した東インド会社にまつわる不可解な合意書。航行中に消息を絶った帆船の謎。そこに秘められた意味を彼に示唆した不遇の事務員ジョージまでもが、長年の宿願の成就を目前にして殺害された。すべての事件の原因は自分にあると思い悩むジョンは、固有名詞辞書執筆に没頭するが…。世界の読書人を驚嘆させた大バロック歴史小説。壮大な謎の真実がついに明らかに。サマセット・モーム賞受賞作。

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【単行本】
ジョン・ランプリエールの辞書 / ローレンス・ノーフォーク
ジョン・ランプリエールの辞書
  • 著者:ローレンス・ノーフォーク
  • 翻訳:青木 純子
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:単行本(603ページ)
  • 発売日:2000-03-01
  • ISBN-10:4488016286
  • ISBN-13:978-4488016289
内容紹介:
18世紀、ジャージー島、子爵家の美少女ジュリエットの水浴姿を見てしまったジョンの父は、猟犬にズタズタに噛み殺される。まるでディアナの水浴姿を覗き見たために八つ裂きにされたアクタイオ… もっと読む
18世紀、ジャージー島、子爵家の美少女ジュリエットの水浴姿を見てしまったジョンの父は、猟犬にズタズタに噛み殺される。まるでディアナの水浴姿を覗き見たために八つ裂きにされたアクタイオンのように。遺産相続手続きのために、ロンドンに赴いた青年ジョンは、神経症の療法として固有名詞辞典の執筆を始めた。ロンドンの地下に潜む秘密組織"カバラ"とは?かつて航行中に消息を絶った帆船の謎とは?ユグノー弾圧の最終頁ともいえるラ・ロシェルの包囲戦の持つ意味は?暗躍するインド人の殺し屋の正体は?そしてジュリエットとジョンの恋の行方は?壮大な謎に満ちた大バロック歴史小説。サマセット・モーム賞受賞作。

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【この読書日記が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

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ジョン・ランプリエールの辞書 / ローレンス・ノーフォーク
ジョン・ランプリエールの辞書
  • 著者:ローレンス・ノーフォーク
  • 翻訳:青木 純子
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(496ページ)
  • 発売日:2006-05-27
  • ISBN-10:4488202039
  • ISBN-13:978-4488202033
内容紹介:
18世紀、ジャージー島。ジョンが想いを寄せる美しい子爵家令嬢の水浴姿を見てしまった父が、猟犬にズタズタに噛み殺される。それは、彼が直前に読んだギリシア神話の物語をなぞるかのような光景であった。神経症を疑う彼は、医師に療法として勧められた固有名詞辞書の執筆を始める。だが、またしてもギリシア神話をなぞる惨劇に遭遇することに…。サマセット・モーム賞受賞作。

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初出メディア

TOKYO★1週間(終刊)

TOKYO★1週間(終刊) 2000年5月23日号

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