書評

『秘密』(東京創元社)

  • 2017/11/05
秘密 上 / ケイト・モートン
秘密 上
  • 著者:ケイト・モートン
  • 翻訳:青木純子
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:単行本(330ページ)
  • 発売日:2013-12-22
  • ISBN-10:4488010083
  • ISBN-13:978-4488010089
内容紹介:
国民的女優ローレルが少女時代に目撃した、母をめぐる恐ろしい出来事。あの50年前の出来事はいったい何だったのか? 母の過去にはいったい何が隠されているのか?

視点と時間軸を行き来する叙述

相変わらず、ケイト・モートンの手並みを堪能できるミステリだ。

フィクションでは、「わたしは」と一人称で語っていることには主観が混じるが、「彼は」「花子は」と三人称で語られる内容は基本的に客観的なこと――大方そんな了解がある。ところが、事実の記録者と思っていた者がじつは犯人や狂人だったりして、真偽が反転するような叙法もある。しかし、『秘密』にはこうした叙述トリックは一切ない。正統的な語りの技で勝負する。

幕開けは1961年のイギリス、サフォークの農場。4人姉妹と末弟のいる家族がにぎやかに誕生日パーティを開いている。そこで長姉のローレルはおぞましい出来事を目撃。見知らぬ侵入者を母ドロシーがナイフで刺殺したのだ――男の正体は? 結婚前の母に何があったのか? 第二幕では、長じて国民的女優となったローレルが、封印していた殺人の記憶を不意に思いだし、母の知られざる側面を追いかけ始める。

構成としては、『秘密の花園』を下敷きにした先行作『忘れられた花園』と似て、複数の人物視点と時間軸を行き来しながら進行する形だ。ローレルが突き止めていく真相と並行して、第2次大戦前、戦中時の若いドロシー、向かいの屋敷に住む憧れの作家夫婦、カメラマンで恋人のジミーという4人の視点から、それぞれの経緯が語られる。そこに挟まれる写真や本や手紙。ハロルド・ピンターの戯曲「バースデー・パーティ」や「ピーター・パン」からの引喩……。誰にも隠された面と秘密があり、誰しも邪(よこしま)な心と無縁ではない。人々の思惑が絡みあい、パズルのピースが収まったと思ったとたん、別の大きな絵が現れる。

時に一人称の語りにも「わたし」の知らない真実が覗き、三人称の語りが主観に支配されていることもむろんある。その人の笑み、仕草(しぐさ)の意味することは何か? 序盤で発せられる「お願いよ、ドリー、大事なことなの」この台詞(せりふ)が終盤でどんな形で反復されるか? イリュージョニスト、モートン一流の芸が如何(いかん)なく発揮されている。
秘密 上 / ケイト・モートン
秘密 上
  • 著者:ケイト・モートン
  • 翻訳:青木純子
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:単行本(330ページ)
  • 発売日:2013-12-22
  • ISBN-10:4488010083
  • ISBN-13:978-4488010089
内容紹介:
国民的女優ローレルが少女時代に目撃した、母をめぐる恐ろしい出来事。あの50年前の出来事はいったい何だったのか? 母の過去にはいったい何が隠されているのか?

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2014年2月2日

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