読書日記

トルーマン・カポーティ『ここから世界が始まる』(新潮社)、塩谷歩波『銭湯図解』(中央公論新社)、村井邦彦『村井邦彦のLA日記』(リットーミュージック)ほか

  • 2019/05/07
◆『ここから世界が始まる トルーマン・カポーティ初期短篇集』トルーマン・カポーティ/著 小川高義/訳(新潮社/税別1900円)
まだまだ、こんなことがあるんですね。あの天才が、若き日に短編小説を書き溜め、ニューヨークの公共図書館が所蔵していた。それが『ここから世界が始まる トルーマン・カポーティ初期短篇集』(小川高義訳)で日の目を見た。まさに「蔵出し」の逸品。 高校時代、文芸誌に発表した7作を含む14編は、習作の域を超えた、まさに「カポーティ」世界の原質が見て取れる。「分かれる道」は、ときに野宿しながら放浪する2人の男だけの話。若い男の懐には10ドル。この虎の子をめぐり、2人に心理的葛藤が! ヘビに噛(か)まれる青い眼の女の子(「水車場の店」)、盗難の疑いで校長室に呼び出されるまじめな女学生(「ヒルダ」)、寒い朝、散った花をつけて死んだ汚れた老婆(「ミス・ベル・ランキン」)と、弱き者、淋しき人、社会の外で生きる人たちが登場。世の中を詳しく知る前の少年だから書けた、きらめく人生の断片。「書くために生まれてきた」と解説で村上春樹は記す。

ここから世界が始まる: トルーマン・カポーティ初期短篇集 / トルーマン カポーティ
ここから世界が始まる: トルーマン・カポーティ初期短篇集
  • 著者:トルーマン カポーティ
  • 翻訳:小川 高義
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(196ページ)
  • 発売日:2019-02-27
  • ISBN:4105014080
内容紹介:
「早熟の天才」と恐れられた作家のデビュー前の才気が迸る! 16歳頃から青年期にかけて執筆された14篇を収録。解説・村上春樹。

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◆『銭湯図解』塩谷歩波・著(中央公論新社/税別1500円)

出版されてすぐに話題となったのが塩谷歩波(えんやほなみ)『銭湯図解』。厳選された銭湯24軒をガイドするのだが、俯瞰(ふかん)のカラーイラストで、しかもほぼ女湯だ(以下自粛)。

こんなことができるのも、著者が女性である以上に、現役で銭湯(東京・小杉湯)の番頭を務めるから。早稲田大大学院で建築を学び、設計事務所に就職するが心身を病み、銭湯へ通い始めた。それが人生のリハビリとなった。

「開放的な空間と銭湯での人々の出会いに気持ちがほぐれ」たと言う。だから、自分もそうだったように、初心者から楽しめる銭湯ガイドになった。東京・日暮里の「斉藤湯」は「まっすぐ真面目な銭湯」と、キャッチもいい。「泣きに行く銭湯」とは、一体?

富士山絵のある古いままの銭湯もいいし、リニューアルされてポップな空間となったニューウェーブもまた楽し。三重県伊賀の「一乃湯」は、マニア心をくすぐる名湯とか。春の散歩の締めは、こうなりゃ銭湯だ。

銭湯図解 / 塩谷 歩波
銭湯図解
  • 著者:塩谷 歩波
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:単行本(123ページ)
  • 発売日:2019-02-20
  • ISBN:4120051692
内容紹介:
小杉湯番頭兼イラストレーターで設計事務所出身の著者が、建築の図法(アイソメトリック)を用い、銭湯の建物内部を精密な俯瞰図で描く「銭湯図解」。Twitter上で発表されて話題となり、新聞、テレビ、ラジオなどでも取り上げられたシリーズが待望の描き下ろし書籍化。本書では、「露天の王様」「銭湯… もっと読む
小杉湯番頭兼イラストレーターで設計事務所出身の著者が、建築の図法(アイソメトリック)を用い、銭湯の建物内部を精密な俯瞰図で描く「銭湯図解」。Twitter上で発表されて話題となり、新聞、テレビ、ラジオなどでも取り上げられたシリーズが待望の描き下ろし書籍化。本書では、「露天の王様」「銭湯建築のニューウェーブ」「泣きに行く銭湯」など、都内を中心に24軒の銭湯の図解をカラーで掲載するとともに、見どころ、味わいどころをエッセイで紹介。銭湯初心者から上級者まで楽しめ、心もほかほかになるイラストエッセイ集。
小山薫堂さん、南沢奈央さん、向井秀徳さん(Zazen Boys)、推薦!
◇本書掲載の銭湯◇


00 小杉湯(東京・高円寺)……ホーム銭湯
01 大黒湯(東京・北千住)……銭湯の原風景
02 梅の湯(東京・荒川)……女友達を連れて行く銭湯
03 斉藤湯(東京・日暮里)……まっすぐ真面目な銭湯

04 萩の湯(東京・鶯谷)……銭湯のテーマパーク
05 戸越銀座温泉(東京・戸越銀座)……ご飯がおいしくなる銭湯
06 大黒湯(東京・押上)……露天の王様
07 喜楽湯(埼玉・川口)……古くて新しい銭湯
08 大蔵湯(東京・町田)……現代銭湯建築の傑作
09 久松湯(東京・練馬)……銭湯建築のニューウェーブ
10 桜館(東京・蒲田)……春に行く銭湯
11 湯どんぶり栄湯(東京・日本堤)……贅沢な銭湯
12 吉の湯(東京・成田東)……遠足したくなる銭湯
13 サウナの梅湯(京都)……京都に浸る銭湯
14 一乃湯(三重・伊賀)……マニアが焦がれる銭湯
15 薬師湯(東京・墨田区)……お風呂のエンタメ
16 蒲田温泉(東京・蒲田)……昭和を味わう銭湯
17 境南浴場(東京・武蔵境)……泣きに行く銭湯
18 大黒湯(東京・代々木上原)……代々木上原の異世界
19 クアパレス習志野(千葉・習志野)……銭湯界のエデン
20 平田温泉(名古屋)……愛情につかる銭湯
21 昭和湯(徳島)……会いに行きたくなる銭湯
22 金春湯(東京・大崎)……実家みたいな銭湯
23 寿湯(東京・東上野)……はじめての銭湯図解

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◆『村井邦彦のLA日記』村井邦彦・著(リットーミュージック税別2200円)

村井邦彦は作曲家でありながら、アルファレコードを創業。荒井由実もYMOも、この人の手で世に出た。現在はロス在住。『村井邦彦のLA日記』を読むと、キラ星のごとき音楽関係者が続々と顔を出す。「ミシェルは(中略)毎日僕の事務所のピアノを使って映画のスコアを」、の「ミシェル」とはミシェル・ルグラン。「アルファ」の草創期の回想もある。プロ化を渋る「赤い鳥」を口説き落とした話、東京・飯倉「キャンティ」で細野晴臣がYMOの構想を語った日のことなど、いやあ熱いです。

村井邦彦のLA日記 / 村井 邦彦
村井邦彦のLA日記
  • 著者:村井 邦彦
  • 出版社:リットーミュージック
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(344ページ)
  • 発売日:2018-10-22
  • ISBN:4845633051

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◆『色ざんげ』宇野千代・著(岩波文庫/税別700円)

宇野千代が岩波文庫入りするのは、この『色ざんげ』が初。1996年に死去して、20年以上かかった。しかしこれは、掛け値なしの傑作。洋行帰りの洋画家湯浅は妻子持ちでありながら、彼を取り囲む女と二重、三重に色事のもめごとが起きる。ほとんど恋愛のことしか描かれない。つまり、現代の「源氏」だ。昭和初期・東京を舞台にしながら、ほとんど改行なしに連綿と綴(つづ)られる文章も、どこか王朝文学っぽい。当時、恋人だった画家・東郷青児をモデルとする。宇野千代はしたたかだ。

色ざんげ / 宇野 千代
色ざんげ
  • 著者:宇野 千代
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:文庫(287ページ)
  • 発売日:2019-02-16
  • ISBN:4003122216
内容紹介:
深く誰か一人を愛するわけではない男と,男の愛を摑んだようで常に不安な女の姿を情感豊かに描きだす

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◆『源頼朝 武家政治の創始者』元木泰雄・著(中公新書/税別900円)

日本史ものでヒットを飛ばす中公新書が、『源頼朝 武家政治の創始者』を打ち出した。著者・元木泰雄は、京都大教授で中世前期政治史を専門とする。武家政権「鎌倉幕府」を打ち立てた源氏の御曹司・頼朝。平治の乱で平氏に敗れ、伊豆で20年もの流人生活を余儀なくされた。考えてみれば不思議な話で、身の危険、艱難辛苦(かんなんしんく)を経て、彼はいかに武門の頂点に立てたのか。著者は先入観を捨て、京との関係も視野に置きながら、その生涯と政治的役割を、そして「流人の奇跡」を、描き出す。

源頼朝-武家政治の創始者 / 元木 泰雄
源頼朝-武家政治の創始者
  • 著者:元木 泰雄
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(296ページ)
  • 発売日:2019-01-18
  • ISBN:4121025261
内容紹介:
流人の挙兵はなぜ成功し、鎌倉幕府はいかなる成立過程を辿ったのか。幾多の苦難を経て、武門における唯一の勝者となった波瀾の生涯。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2019年4月21日増大号

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