読書日記

安生正『東京クライシス 』(祥伝社)、嵐山光三郎『ゆうゆうヨシ子さん』(中央公論新社)、萩野正昭『これからの本の話をしよう』(晶文社)

  • 2019/05/20
◆『東京クライシス 内閣府企画官・文月祐美 』安生正・著(祥伝社/税別1700円)
ときは真夏、関東の雷と竜巻が変電所を襲い、豪雨は荒川を決壊させる寸前。大規模停電が起き、鉄道はマヒ、帰宅困難者が街にあふれ出し、都心はパニックに!

安生正『東京クライシス』は、未曽有の災害に見舞われた東京の混乱を、きわめてリアルに描いた。グズな政府の対応が危機管理能力のなさを暴露……という展開は、小説であることを忘れる。そんな中で孤軍奮闘するのが内閣府企画官・文月祐美(ふづきゆみ)。災害対応の専門家として、毅然と国難を乗りこえる。

国民に目を向けず、「政治そのものが目的になっている」内閣に対し、現場で自ら判断し対処する人たちがいる。クビを覚悟で行動するのは仕事への誇りがあるから。無責任の連鎖の前で、文月と彼らが持ち場を死守する姿は感動的だ。

東日本大震災で活躍した元内閣府の役人が、助っ人で呼び寄せられる。彼は文月に「最後まで逃げない勇気」を求めるのだ。災害と官邸を相手に闘い続けるヒロインに、最後の1ページまで目が離せない。

東京クライシス 内閣府企画官・文月祐美 / 安生正
東京クライシス 内閣府企画官・文月祐美
  • 著者:安生正
  • 出版社:祥伝社
  • 装丁:単行本(323ページ)
  • 発売日:2019-03-12
  • ISBN-10:4396635621
  • ISBN-13:978-4396635626

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◆『ゆうゆうヨシ子さん ローボ百歳の日々』嵐山光三郎・著(中央公論新社/税別1600円)

「サンデー俳句王」宗匠でおなじみ嵐山光三郎の『ゆうゆうヨシ子さん』。主役は今年102歳になる母。60を過ぎて俳句を詠み出した。75歳の「不良老年(ムスコ)」と「母(ローボ)」の俳句を通じた日々が綴(つづ)られる。

俳句教室へ通い、句誌に参加し、84歳で第一句集出版。句誌主宰者は「努力家で几帳面な性格ですが、一切角張った感じがないのは人徳」と評した。休まず詠み続けた。「母の日の星またたきて闇に消ゆ」は初期の句。息子は「胸にずきんと矢を射られた」気がした。

先に逝った父・ノブちゃんも句作が趣味。俳句一家だ。在住する東京・国立の町、幼なじみの人々、少年時代など、俳句まじりで回想される話も本書の読みどころ。「春風に襁褓の波の白さかな」はヨシ子さんのおむつを詠んだ句。おおらかでユーモラスなのは家風であろうか。足腰が弱り、外出できなくなるなど、老いは進行する。それでも「紫陽花の花の重さを活けりけり」と、俳句がヨシ子さんを生かしている。

ゆうゆうヨシ子さん-ローボ百歳の日々 / 嵐山 光三郎
ゆうゆうヨシ子さん-ローボ百歳の日々
  • 著者:嵐山 光三郎
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:単行本(292ページ)
  • 発売日:2019-03-16
  • ISBN-10:4120051757
  • ISBN-13:978-4120051753
内容紹介:
雛あられ男ばかりを育てけりーー老母ヨシ子さんは百歳。老母とのゆるやかな同居のなかで起きるささやかなできごとを、母の俳句を交えて綴るエッセイ集

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◆『これからの本の話をしよう』萩野正昭・著(晶文社/税別1700円)

本離れとデジタル化が加速するいま、本の原点を見直そうとするのが萩野正昭『これからの本の話をしよう』。著者は書籍の電子化を手がけたボイジャー・ジャパンの創業者。本は優れたメディアという基本を踏まえ、「本の輝かしい歴史」などという美談に溺れず、デジタル時代の「本」の姿を提示。米国ボイジャー創業者のこと、ブックデザイナー鈴木一誌にインタビューするなど、多角的な視点が魅力的だ。第4章「本とは、ほんとうにただものではない」のタイトルが力強く未来を指し示す。

これからの本の話をしよう / 萩野 正昭
これからの本の話をしよう
  • 著者:萩野 正昭
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(301ページ)
  • 発売日:2019-02-01
  • ISBN-10:4794970757
  • ISBN-13:978-4794970756
内容紹介:
紙か、電子か、といった技術論やビジネス論にとどまらず、本そのものの魅力、役割、本と出版の未来を考えた、デジタル時代の出版論。

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◆『赤い館の秘密』A・A・ミルン/著(創元推理文庫/税別940円)

ミステリー史上、極めつきの名作の一つが『赤い館の秘密』。A・A・ミルンは『クマのプーさん』でおなじみ。100年近く前の長編探偵小説が、山田順子の新訳で甦(よみがえ)った。赤い館に住む名士マークを15年ぶりに兄のロバートが訪ねる。館内に一発の銃声。ロバートの死体が転がっていた。事件後に姿を消したマークに疑いがかかるが、いったい真犯人は誰? 館に居合わせたギリンガムが、友人べヴァリーをワトスン役に謎を解く。殺人が起こるのにどこかほのぼのしているのは「プーさん」の著者らしい。

赤い館の秘密【新訳版】 / A・A・ミルン
赤い館の秘密【新訳版】
  • 著者:A・A・ミルン
  • 翻訳:山田 順子
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:文庫(336ページ)
  • 発売日:2019-03-20
  • ISBN-10:4488116027
  • ISBN-13:978-4488116026
内容紹介:
長閑な夏の昼下がり、田舎の名士の屋敷、赤い館で銃声が轟いた。死んだのは、15年ぶりに館の主マークを訪ねてきた兄。発見したのは館の管理を任されているマークの従弟と、友人を訪ねてきた青… もっと読む
長閑な夏の昼下がり、田舎の名士の屋敷、赤い館で銃声が轟いた。死んだのは、15年ぶりに館の主マークを訪ねてきた兄。発見したのは館の管理を任されているマークの従弟と、友人を訪ねてきた青年ギリンガムだった。発見時の状況から当然マークに疑いがかかるが、マークは行方知れず。興味をひかれたギリンガムは、友人をワトスン役に事件を調べ始める。『クマのプーさん』で有名な英国の劇作家ミルンが書いた長編探偵小説、新訳決定版。

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◆『進化する形』倉谷滋・著(講談社現代新書/税別1000円)

倉谷滋『進化する形』の帯に「なぜ世界にはこれほどさまざまな生物がいるのだろう」とある。確かに昆虫や鳥、魚、脊椎(せきつい)動物と、皆見事に違う形をしている。著者は専門の「進化形態学」を基礎に、解剖学や発生学の話題も盛り込み「生物の形が変わるとは、どういうことか」を考察する。「原型論」と「反復説」、「複雑系」や「ゲノム」など専門知識がちりばめられるが、多数の図版が理解を助ける。カブトムシとシーラカンスが生物学的にどうつながるか。ダーウィンを追い抜く快感あり。

進化する形 進化発生学入門 / 倉谷 滋
進化する形 進化発生学入門
  • 著者:倉谷 滋
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(352ページ)
  • 発売日:2019-03-13
  • ISBN-10:4065151120
  • ISBN-13:978-4065151129
内容紹介:
生物進化メカニズムの鍵はゲノムにあった。現代科学の最もホットな分野の1つ、進化発生学の世界を最先端の研究者がわかりやすく解説

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