コラム

小沢 一郎『語る』(文藝春秋)、野中 広務『私は闘う』(文藝春秋)

  • 2020/07/06

閉塞状況反映する政治家本

小沢一郎氏の本と野中広務氏の本が、立て続けにこの時期に刊行された(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1996年)。片や新進にこなた自民、二大政党制を象徴するかのような趣ではないか。

実は五五年体制崩壊前後から、読むにたえる現役の政治家の本、やや硬目の政策を議論した本が流行の兆しを見せた。その嚆矢(こうし)が、ご存知小沢一郎氏の「日本改造計画」であった。これは明らかに現実政治に大きな影響を与えた。だがそうそう柳の下にどじょうはおらず、最近はこの手の本もやや息切れの傾向にあった。

それ故か、今回はガラリと趣向を変えて「語る」に「私は闘う」。ともに二人の語りを生かした本だ。なるほど今の政治の閉塞状況を、見事なまでに反映した政治家本の登場である。小沢氏は得意のスケールの大きな国家改造構想を縦横無尽に語っているが、野党として構造的に封じこめられている以上、その構想を現実化する手立てがない。その苛立ちは当然のことながら自分の主張をわかってくれないマスコミにむけられる。だから「マスコミは最大の守旧派」と語るわけである。

野中氏にとっては、地方議員としての経験を生かし、小さな政治の積み上げこそが大事なのだから、現場の体験一つ一つを語ることに意味を見出す。しかし与党としての青写真は、いっこうに見えてこない。もっとも野中氏もまた自分の主張を理解しないマスコミに苛立ち、「日本には恐ろしい風がある。マスコミもそうだ」と言い切るのである。

ともすれば守旧派になびき、さらなる「政治改革」に踏み切らぬ国民に、小沢氏は半ば愛想をつかす。「政治改革」に不純の動機を見出し、これを元に戻す世論がわかぬ現状を、野中氏は残念がる。どうも二人とも、マスコミと国民を的確に捉える手段を見出せぬままのようだ。この点に、今の日本政治の袋小路状況が実によくうかがえる。

それにしても政敵へのあからさまな非難など、双方ともなかなかに毒を含んだ本である。勧進元はと見たら、何とどちらも同じ所だ。毒を消すにはもう一つの毒をというつもりか。いやこれはちゃっかり商売上手で保険もかけた、今様ジャーナリズムの一つのあり方なのであろう。

語る / 小沢 一郎
語る
  • 著者:小沢 一郎
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(238ページ)
  • 発売日:1996-04-01
  • ISBN-10:4163502106
  • ISBN-13:978-4163502106
内容紹介:
政界のキーマン、初の独占インタビュー。日本再生の旗手が初めて語った、政治と政治家の責任、政界再編秘話、金権批判について、創価学会・公明について、政治手法について、歴史観、人生観、生い立ちについて、健康について等々々。

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私は闘う / 野中 広務
私は闘う
  • 著者:野中 広務
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(265ページ)
  • 発売日:1999-07-01
  • ISBN-10:4167600021
  • ISBN-13:978-4167600020

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 1996.06.09

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