書評
『誰が「橋下徹」をつくったか ―大阪都構想とメディアの迷走』(140B)
「言葉」を乗っ取られた社会
「彼が政治家になった7年半で、ずいぶん荒っぽい言葉が社会に蔓延するようになった。それまではネットの中にとどまっていた攻撃的で排他的、汚い言葉遣いで誰かを罵るような人が増えた。彼の悪影響は大きいと思います」彼とは、橋下徹・前大阪市長。大阪のテレビ局で行政を取材してきたベテラン記者の感想である。
橋下氏が大阪府知事選に出馬してから現在に至るまでの、メディアとの関係を詳細に検証した本書を読んで、私がまず思ったのも、橋下行政最大の負の遺産はヘイトスピーチの隆盛だということだ。
著者によれば、報道メディア、特にテレビ局は橋下氏をタレントとして育てたとの身内意識があるから、政治家転身の際に親身にサポートする姿勢が強かった。だが、熱狂を呼び起こすその弁舌に異例なまでのスポットライトを浴びせ続けるうち、メディア自らが、敵を作って支持を集める橋下氏の手法の餌食になっていく。橋下氏に依存状態になったメディアは、どれほど侮蔑的で事実無根の罵倒を浴びせられても、それを批判して影響力圏を脱することはできなくなっていた。橋下氏が維新の党の公式文書を通じて、都構想に批判的な識者を出演させるなとテレビ局に圧力をかければ、その意向を汲んだ配慮をするありさまだった。
橋下氏は、民主主義、言論の自由、公正中立といった「マスメディアが食いつき、賛同しないわけにはいかない言葉」で己を武装し、「メディアが機械的に唱えるうちに空洞化してしまったその言葉の意味を、自らに都合よくねじ曲げて声高に主張する」、と著者は分析する。メディアは「『言葉』を橋下に乗っ取られてしまった」のだ。
橋下氏をなぞるように暴力的な物言いをし、表現の自由だと主張する者たちも、それを黙ってやり過ごす私たちも、言葉を乗っ取られている。
朝日新聞 2015年12月20日
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