コラム

Web版史料纂集 古記録編 第2期 室町・戦国①~③

  • 2024/05/29
『Web版史料纂集』は、オンライン辞書・事典サイト「ジャパンナレッジ」の電子書籍プラットフォームJKBooksにて配信中の史料データベースです。2023年1月に第1期、2024年1月には第2期が配信されました。日本の歴史・文化研究に必須の一大叢書の電子版を活用すると何がわかるのか。もう1つの重要データベースである『Web版群書類従』とあわせてご紹介します。

『Web版史料纂集』とはどのようなデータベースか

「史料纂集」とは

はじめに、「史料纂集」とは、日本の歴史・文化研究で必須の重要史料を、使いやすく翻刻した史料集成です。「翻刻(ほんこく)」は、歴史史料を誰でも使いやすくするための重要な作業です。

日本の歴史史料の多くは和紙に筆で書かれていますが、いわゆる「くずし字」という文字は、専門的な訓練を受けなければ簡単には解読できません。それを読みやすく活字にすることを翻刻といいます。
さらに、史料の原本が傷んで読めなくなっている箇所の補足や、文字の間違いなどを訂正する「校訂」という作業も加えています。そうして、史料をより研究に使いやすいテキストとして提供するのが「史料纂集」というシリーズです。

「史料纂集」には古代から近世まで、公家の日記から武士の書状、寺社の証文など、さまざまな時代やジャンルの古記録(歴史的な日記史料のこと)や古文書を収録し、これまでに270冊以上を刊行し、現在も紙媒体で刊行しています。

「群書類従」とは

続いて、「群書類従」とは、江戸時代の学者・塙保己一(1746-1821)が古代から近世までのあらゆる貴重な文献を網羅して蒐集、分類して編纂した叢書です。塙保己一の没後も編纂事業は続き、大正11年から昭和47年にかけて続群書類従完成会が完結させました。「群書類従」は江戸時代には版木を彫って木版で刊行されていましたが、現在は「史料纂集」のように活字化した書籍として刊行されています。

なお、「群書類従」とひとくくりにしていますが、正しくは「群書類従」「続群書類従」の2種類に分かれています。また、塙保己一の編に漏れた文献を、明治40年ごろに追加で編纂した「続々群書類従」も存在しています。『Web版群書類従』には、これら3つをまとめた計133冊分を収録しています。


「史料纂集」と「群書類従」の違い

「史料纂集」と「群書類従」の2つには大きな違いがあります。

文献史料は、大きく分けて、当時書かれた同時代史料と、後世になってまとめられた編纂史料というものに分けられます。同時代史料は一次史料、編纂史料は二次史料とも言われます。たとえば、なにか事件が起きたとして、そのときに書かれた新聞記事は同時代史料、後からそれらの新聞記事の内容を引用して1冊の本にまとめたものは編纂史料、というイメージです。

「史料纂集」は、当時書かれた古記録や、書状や色々な証文などの古文書を収録しているので、当時のことが書かれた一次史料といえます。特に「史料纂集」は、何年何月何日にどんな出来事があったか、と年月日まで特定できる記事が多いことも特長です。

対して「群書類従」は、塙保己一が色々な書物をまとめた史料群なので、編纂史料といえます。「大日本史料」や「鎌倉遺文」なども二次史料です。

その当時のことを記した一次史料と、後から編纂された二次史料とでは、やはり一次史料のほうが重要視されます。ただし、当時の史料がそのまま現代まで伝わることは難しく、そうした長い歴史のなかで失われてしまった一次史料を補完してくれるものとして二次史料は重要な役割を果たしています。


データベースで調べてみよう――日本中世の風呂事情

「史料纂集」「群書類従」は、どちらも日本史や日本文学の研究で欠かせない歴史史料ですが、従来は、何百冊もの書籍をすべてその手でめくらなければ内容を総覧することはできませんでした。しかし『Web版』の登場により、ほんの数秒で全文検索が可能となったことで、歴史史料がとても手軽で身近なものとなりました。

今回は、『Web版史料纂集』『Web版群書類従』の活用例として、私たち日本人の暮らしに欠かせない「風呂」について調べてみましょう。

まずは『Web版群書類従』で「風呂」と検索してみますと、95件がヒットしました。特に「群書類従」の「雑部」に収録された、中世から近世にかけての随筆・紀行文の中に、風呂に関する記述が多く含まれているようです。当時の人々が旅先で「湯風呂」や「石風呂」、「桑風呂」といった様々な風呂に入っていた様子が窺えます。

また、「続群書類従」の「武家部」に収録されている「中島摂津守宗次記」では、「風呂にいる時ハ。左の足より入へし。出る時ハ……」などと、中世武家の入浴作法についての記述なども見つかりました。多種多様な史料の叢書である『Web版群書類従』ならではの検索結果といえるでしょう。

では、次に『Web版史料纂集』で「風呂」と検索してみましょう。すると、1787件もの結果がヒットしました。現在公開されている『Web版史料纂集 第1期 平安・鎌倉・南北朝』『Web版史料纂集 第2期 室町・戦国①~③』は、いずれも当時の人々が書いた古記録=日記の史料です。つまり、「風呂」が古記録に多く登場するということは、昔から風呂が日常生活に密接に関わっていたことを示しているといえるでしょう。

『Web版史料纂集』でヒットした「風呂」の検索結果では、いつ、誰と、どこの風呂に入った、といった内容が詳細に記録されています。『教言卿記』応永14年(1407)9月23日の記事には、「風呂釜加修理持来、七百文下行了」と、壊れた風呂釜を修理して使っていることや、修理の代金なども記されていました。


史料をより身近に、文献調査をより簡単に

歴史史料というと歴史上の重大事件ばかり書いてあるイメージを持つかもしれませんが、「史料纂集」に収録された古記録の多くは、記主の生活を率直に記したものです。それら個々の記録を集めて分析していくと、何気ない日々の暮らしにも、色々な歴史が刻まれていることに気づきます。先に紹介したように、「風呂」と調べるだけでも、当時の文化・風俗や、衛生意識、経済など、見方によって様々な研究の材料になるはずです。

最も大事なことは、『Web版史料纂集』『Web版群書類従』なら、歴史史料の専門家でなくとも、上記のような文献調査を短時間で簡単に行えるようになったことです。史料の電子化は、作業を効率化したり保管場所の問題を解決したりするだけでなく、データベースという一種のツールとなることで、史料がもつ新たな可能性をひらくものであると確信しています。

『Web版史料纂集』『Web版群書類従』が今後も幅広く活用され、様々な研究に活かされることを期待しています。

*『Web版史料纂集』『Web版群書類従』は図書館・法人向けのサービスです。

〔参考記事〕
Web版史料纂集・群書類従 お役立ちコンテンツ(八木書店出版部のページ)
https://company.books-yagi.co.jp/archives/news/9232

[書き手]
八木書店出版部
1934年創業の学術出版社。日本の文学・歴史を中心に、演劇・美術・書誌学関連の出版を行っています。なかでも学術資料として貴重な古典籍を高精度に複製、翻刻することをメインとしています。
近年の出版事情にあわせて、「群書類従(正・続・続々)」133冊や「史料纂集」シリーズを順次全文電子化し、配信するなど、学術資料の一次資料の研究基盤を整備するべく、電子出版にも取り組んでいます。
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