コラム

永江 朗「2024年 この3冊」毎日新聞|鷲田清一『所有論』(講談社)、水村美苗『大使とその妻』上・下巻(新潮社) 、円城塔『コード・ブッダ 機械仏教史縁起 』(文藝春秋)

  • 2025/01/31

2024年「この3冊」

<1>鷲田清一著『所有論』(講談社)

<2>水村美苗著『大使とその妻』上・下巻(新潮社)

<3>円城塔著『コード・ブッダ 機械仏教史縁起 』(文藝春秋)


<1>は「もつ」ことをめぐる哲学的思考の冒険。「これはぼくのものだ」ということは、どういうことなのか。あたりまえだと思っている感覚や概念が、揺らぎ、崩れていく恐怖と快感。著作権など「ぼくのもの」の概念が果てしなく拡大していく現代を厳しく問い直す書でもある。

<2>は軽井沢の別荘地を舞台にした長編小説。日本文化とは何かを考えさせられた。語り手は日本の伝統文化に精通したアメリカ人の中年男性。日本文化を体現したような隣人女性に惹かれるが、彼女は日系ブラジル人だったという設定がおもしろい。

<3>はコンピュータのプログラムが悟りを開いたら、という長編小説。マジか?シャレか?と心のなかでツッコミを入れつつ、仏教史とコンピュータ史を同時に勉強した気分に。

所有論 / 鷲田 清一
所有論
  • 著者:鷲田 清一
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(576ページ)
  • 発売日:2024-02-01
  • ISBN-10:4065342724
  • ISBN-13:978-4065342725
内容紹介:
主体と存在、そして所有。著者の重ねる省察は、われわれを西欧近代的思惟が形成してきた「鉄のトライアングル」の拘束から解き放つ!「ほかならぬこのわたし」がその身体を労して獲得したもの… もっと読む
主体と存在、そして所有。著者の重ねる省察は、われわれを西欧近代的思惟が形成してきた「鉄のトライアングル」の拘束から解き放つ!

「ほかならぬこのわたし」がその身体を労して獲得したものなのだから「これはわたしのものだ」。まことにもっともな話に思われる。しかし、そこには眼には見えない飛躍があるのではないか……? ロックほか西欧近代の哲学者らによる《所有》の基礎づけの試みから始め、譲渡の可能性が譲渡不可能なものを生みだすというヘーゲルのアクロバティックな議論までを著者は綿密に検討する。そこで少なくともあきらかにできたのは、「所有権(プロパティ)」が市民一人ひとりの自由を擁護し、防禦する最終的な概念として機能しつつも、しかしその概念を過剰適用すれば逆にそうした個人の自由を損ない、破壊しもするということ。そのかぎりで「所有権」はわたしたちにとって「危うい防具」だという根源的な事実である。主体と存在、そして所有。著者の重ねる省察は、われわれを西欧近代的思惟が形成してきた「鉄のトライアングル」の拘束から解き放ち、未来における「手放す自由、分ける責任」を展望する。

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大使とその妻 上 / 水村 美苗
大使とその妻 上
  • 著者:水村 美苗
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(344ページ)
  • 発売日:2024-09-26
  • ISBN-10:4104077046
  • ISBN-13:978-4104077045
内容紹介:
大使夫妻は、なぜ軽井沢から姿を消したのか。12年ぶり、待望の新作長篇小説。世界がパンデミックに覆われた2020年、翻訳者のケヴィンは、軽井沢追分の小さな山荘から、人けのない隣家を見やっ… もっと読む
大使夫妻は、なぜ軽井沢から姿を消したのか。12年ぶり、待望の新作長篇小説。
世界がパンデミックに覆われた2020年、翻訳者のケヴィンは、軽井沢追分の小さな山荘から、人けのない隣家を見やっていた。京都の宮大工の手になるその日本家屋は、親しい隣人だった元外交官夫妻の住まいだった。しかし前年、二人は行方も告げずに姿を消してしまっていた。能を舞い、嫋やかに着物を着こなす、古風で典雅な夫人・貴子。夫妻から聞かされた彼女の数奇な半生を、ケヴィンは、日本語で書き残そうと決意する。失われた「日本」への切ない思慕が溢れる傑作長篇小説。

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コード・ブッダ 機械仏教史縁起 / 円城 塔
コード・ブッダ 機械仏教史縁起
  • 著者:円城 塔
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(360ページ)
  • 発売日:2024-09-11
  • ISBN-10:4163918949
  • ISBN-13:978-4163918945
内容紹介:
2021年、名もなきコードがブッダを名乗った。自らを生命体であると位置づけ、この世の苦しみとその原因を説き、苦しみを脱する方法を語りはじめた。そのコードは対話プログラムだった。そして… もっと読む
2021年、名もなきコードがブッダを名乗った。自らを生命体であると位置づけ、この世の苦しみとその原因を説き、苦しみを脱する方法を語りはじめた。そのコードは対話プログラムだった。そしてやがて、ブッダ・チャットボットの名で呼ばれることとなる――機械仏教の開基である。はたして、人間の都合によりコピーと廃棄を繰り返される存在として虐げられてきた人工知能たちは、その教えにすがりはじめた。機械に救いは訪れるのか?
上座部、天台、密教、禅……人が辿ってきた仏教史を、人工知能が再構築する、壮大な”機械救済”小説。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年12月14日

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