書評
『ひなた』(光文社)
ビルの谷間、家の温かさ
吉田修一の小説を読むたびに、巧いなぁと思う。特にこの『ひなた』みたいに、大きな事件が起こるわけでもなく、暴力もセックスも出てこない小説って、小説のテクニックが直接問われるだろう。だが、何の苦もなく読み通すことができる。吉田修一の筆の冴(さ)え。出てくる主な登場人物は、新堂レイ、大路尚純、大路桂子、大路浩一の四人。それぞれの四季を順番に描き出しながら、小説は一年を通過する。レイと尚純は恋人同士、桂子と浩一は夫婦で浩一の両親と同居している。尚純と浩一は兄弟だが、血の繋(つな)がりがない(と思ってきた)。
物語の中心は、大路家である。大路家、といっても漠然とした家族ではなく、彼らの住まう家である。地下鉄丸ノ内線の茗荷谷駅を出て、高層マンションを抜けると、まるでそこだけぽっかりと別の空気を呼吸しているような、その名も「小日向」という町が現れる。大路家はそこにある。
築五十年は経(た)っている大きな家に、大勢の人物たちは出入りし、時に長く留まり、闖入(ちんにゅう)者を迎え入れ、坂道から空を見上げたりする。家の温かさに生かされている人々の物語。
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