選評

『悪人』(朝日新聞出版)

  • 2017/10/12
悪人  / 吉田 修一
悪人
  • 著者:吉田 修一
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(272ページ)
  • 発売日:2009-11-06
  • ISBN:4022645237
内容紹介:
九州地方に珍しく雪が降った夜、土木作業員の清水祐一は、携帯サイトで知り合った女性を殺害してしまう。母親に捨てられ、幼くして祖父母に引き取られた。ヘルス嬢を真剣に好きになり、祖父母の手伝いに明け暮れる日々。そんな彼を殺人に走らせたものとは、一体何か-。

大佛次郎賞(第34回)

受賞作=吉田修一「悪人」、最相葉月「星新一 一〇〇一話をつくった人」/他の選考委員=川本三郎、髙樹のぶ子、山折哲雄、養老孟司/主催=朝日新聞社/発表=同紙二〇〇七年十二月二十二日

欲望の罠生きる姿描く

ケイタイ、車、ラブホテルなどで張り巡らされた欲望の網――これが「いま」の社会が仕掛けている巨大な罠(わな)だが、淋(さび)しい人たちが、その孤独さから進んでその網に引っ掛かり、たちまち「悪人」へと堕(お)ちていく。吉田修一氏の『悪人』は、その網でもがく若者の一部始終を、張りつめた文体と緊密な構成とで描き出している。どこを切っても、網の中で営まれている人の生の悲しみが滴り落ちてくるが、この罠の中でよりよく生きるには強い愛しかないという結尾で、すべては浄化される。構えの大きい、奥行きの深い力作である。

わが国にショートショートという新分野を切り拓(ひら)いた星新一の業績はもはやゆるぎのないところだが、最相葉月氏の『星新一 一〇〇一話をつくった人』は、この文学的冒険家の全生涯を、長期にわたる誠実で綿密な取材調査と、読みやすい伸びやかな文章で、巨(おお)きく彫り上げた。星新一の興味深い出自から、わびしくつらい晩年までが、具体的な挿話をふんだんに使って描かれているので、一気に読み進むことができる。そして読み終えたとき、これがりっぱな日本SF文学史であったことにも気づいて、その力業(ちからわざ)に舌を巻いた。

【この選評が収録されている書籍】
井上ひさし全選評 / 井上 ひさし
井上ひさし全選評
  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(821ページ)
  • ISBN:4560080380
内容紹介:
2009年までの36年間、延べ370余にわたる選考会に出席。白熱の全選評が浮き彫りにする、文学・演劇の新たな成果。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

悪人  / 吉田 修一
悪人
  • 著者:吉田 修一
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(272ページ)
  • 発売日:2009-11-06
  • ISBN:4022645237
内容紹介:
九州地方に珍しく雪が降った夜、土木作業員の清水祐一は、携帯サイトで知り合った女性を殺害してしまう。母親に捨てられ、幼くして祖父母に引き取られた。ヘルス嬢を真剣に好きになり、祖父母の手伝いに明け暮れる日々。そんな彼を殺人に走らせたものとは、一体何か-。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2007年12月22日

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