選評

『出星前夜』(小学館)

  • 2017/08/27
出星前夜  / 飯嶋 和一
出星前夜
  • 著者:飯嶋 和一
  • 出版社:小学館
  • 装丁:文庫(714ページ)
  • 発売日:2013-02-06
  • ISBN:4094087966
内容紹介:
寛永十四年、突如として島原を襲った傷寒禍(伝染病)が一帯の小児らの命を次々に奪い始めた。有家村の庄屋・鬼塚甚右衛門は旧知の医師・外崎恵舟を長崎から呼ぶが、代官所はあろうことかこの医師を追放。これに抗議して少年ら数十名が村外れの教会堂跡に集結した。折しも代官所で火事が発生し、代官所はこれを彼らの仕業と決めつけ討伐に向かうが、逆に少年らの銃撃に遭って九人が死亡、四人が重傷を負う。松倉家入封以来二十年、無抵抗をつらぬいてきた旧キリシタンの土地で起こった、それは初めての武装蜂起だった…。第35回大佛次郎賞受賞の歴史超大作。

大佛次郎賞(第35回)

受賞作=飯嶋和一「出星前夜」/他の選考委員=池内了、川本三郎、髙樹のぶ子、山折哲雄/主催=朝日新聞社/発表=同紙二〇〇八年十二月二十二日

ここに歴史があった実感

信じがたいほど不当な年貢要求に対して蜂起した、もとキリスト教徒の庄屋衆と百姓たち。飯嶋和一氏の『出星前夜』は、この島原の乱を2人の男を軸に展開させ、さらに二つの目を使いこなして、すばらしい成果をおさめた。

領主に追従する節操のない庄屋と思われていた有家の甚右衛門は、やがて百姓たちの苦しむさまを見かねて、政治的駆け引きを駆使する。その知恵の深さとおもしろさは読者の記憶に永く残るはず。しかも甚右衛門は戦になると強いのだ。

蜂起の点火役の、寿安と呼ばれる若者は、蜂起が成功したとたん、義民だったはずの百姓たちが暴徒と化したのを見て打ちひしがれ、病者を救う道を選ぶ。苦悩の泥と悲哀の砂で固められた道を必死に歩きつづける寿安に、次第に人間存在のみごとな美しさが現れてくるのは、とても巧みな設計である。

作者の採った二つの目とは、大蜂起の全体を鳥から眺める目と、登場人物たちの心理と行動を蟻(あり)から観察する目。この二つが、いい間合いにリズムを刻んでいるので寸時も飽きることがなく、そして読後の「たしかにここに歴史があった」という実感――傑作である。

【この選評が収録されている書籍】
井上ひさし全選評 / 井上 ひさし
井上ひさし全選評
  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(821ページ)
  • ISBN:4560080380
内容紹介:
2009年までの36年間、延べ370余にわたる選考会に出席。白熱の全選評が浮き彫りにする、文学・演劇の新たな成果。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

出星前夜  / 飯嶋 和一
出星前夜
  • 著者:飯嶋 和一
  • 出版社:小学館
  • 装丁:文庫(714ページ)
  • 発売日:2013-02-06
  • ISBN:4094087966
内容紹介:
寛永十四年、突如として島原を襲った傷寒禍(伝染病)が一帯の小児らの命を次々に奪い始めた。有家村の庄屋・鬼塚甚右衛門は旧知の医師・外崎恵舟を長崎から呼ぶが、代官所はあろうことかこの医師を追放。これに抗議して少年ら数十名が村外れの教会堂跡に集結した。折しも代官所で火事が発生し、代官所はこれを彼らの仕業と決めつけ討伐に向かうが、逆に少年らの銃撃に遭って九人が死亡、四人が重傷を負う。松倉家入封以来二十年、無抵抗をつらぬいてきた旧キリシタンの土地で起こった、それは初めての武装蜂起だった…。第35回大佛次郎賞受賞の歴史超大作。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2008年12月22日

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