選評

『星新一 一〇〇一話をつくった人』(新潮社)

  • 2017/10/12
星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人  / 最相 葉月
星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人
  • 著者:最相 葉月
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(404ページ)
  • 発売日:2010-03-26
  • ISBN-10:410148225X
  • ISBN-13:978-4101482255
内容紹介:
「ボッコちゃん」「マイ国家」など数多のショートショートを生み出し、今なお愛される星新一。森鴎外の血縁にあたり、大企業の御曹司として生まれた少年はいかなる人生を歩んだのか。星製薬社長となった空白の六年間と封印された負の遺産、昭和の借金王と呼ばれた父との関係、作家の片鱗をみせた青年時代、後の盟友たちとの出会い-知られざる小説家以前の姿を浮かび上がらせる。

大佛次郎賞(第34回)

受賞作=吉田修一「悪人」、最相葉月「星新一 一〇〇一話をつくった人」/他の選考委員=川本三郎、髙樹のぶ子、山折哲雄、養老孟司/主催=朝日新聞社/発表=同紙二〇〇七年十二月二十二日

欲望の罠生きる姿描く

ケイタイ、車、ラブホテルなどで張り巡らされた欲望の網――これが「いま」の社会が仕掛けている巨大な罠(わな)だが、淋(さび)しい人たちが、その孤独さから進んでその網に引っ掛かり、たちまち「悪人」へと堕(お)ちていく。吉田修一氏の『悪人』は、その網でもがく若者の一部始終を、張りつめた文体と緊密な構成とで描き出している。どこを切っても、網の中で営まれている人の生の悲しみが滴り落ちてくるが、この罠の中でよりよく生きるには強い愛しかないという結尾で、すべては浄化される。構えの大きい、奥行きの深い力作である。

わが国にショートショートという新分野を切り拓(ひら)いた星新一の業績はもはやゆるぎのないところだが、最相葉月氏の『星新一 一〇〇一話をつくった人』は、この文学的冒険家の全生涯を、長期にわたる誠実で綿密な取材調査と、読みやすい伸びやかな文章で、巨(おお)きく彫り上げた。星新一の興味深い出自から、わびしくつらい晩年までが、具体的な挿話をふんだんに使って描かれているので、一気に読み進むことができる。そして読み終えたとき、これがりっぱな日本SF文学史であったことにも気づいて、その力業(ちからわざ)に舌を巻いた。

【この選評が収録されている書籍】
井上ひさし全選評 / 井上 ひさし
井上ひさし全選評
  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(821ページ)
  • 発売日:2010-02-01
  • ISBN-10:4560080380
  • ISBN-13:978-4560080382
内容紹介:
2009年までの36年間、延べ370余にわたる選考会に出席。白熱の全選評が浮き彫りにする、文学・演劇の新たな成果。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人  / 最相 葉月
星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人
  • 著者:最相 葉月
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(404ページ)
  • 発売日:2010-03-26
  • ISBN-10:410148225X
  • ISBN-13:978-4101482255
内容紹介:
「ボッコちゃん」「マイ国家」など数多のショートショートを生み出し、今なお愛される星新一。森鴎外の血縁にあたり、大企業の御曹司として生まれた少年はいかなる人生を歩んだのか。星製薬社長となった空白の六年間と封印された負の遺産、昭和の借金王と呼ばれた父との関係、作家の片鱗をみせた青年時代、後の盟友たちとの出会い-知られざる小説家以前の姿を浮かび上がらせる。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2007年12月22日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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