読書日記
『黄金旅風』(小学館)
飯嶋和一は幻の直木賞作家なんである。ライト兄弟より一〇〇年以上先駆けて空を飛んでみせた男が主人公の、痛快時代小説『始祖鳥記』で獲っていなければおかしいというのが、心正しき文学賞ウォッチャーの間では常識になっているのだ。んが、受賞していない。なぜか? 授賞のタイミングを逸しがちな直木賞選考委員の非、と言いたいところだけど違います。実は作家本人が「直木賞の候補にしないでくれ」宣言を、かつてしてしまっているからなのだ。その理由は「作家は小説だけ書いていればいい」。飯嶋和一は自作に登場する男子のごとく気骨溢れる御仁なんである。
『黄金旅風』はその『始祖鳥記』以来、四年ぶりとなる書き下ろし新作。江戸時代初期、南蛮貿易でにぎわう長崎に二人の大馬鹿者が生まれる。長崎における港務権の一切を掌握し、ポルトガルやイスパニア人はもちろん、イギリスやオランダ人からも「カピタン(貿易司令官)平蔵」と呼ばれ恐れられる朱印船貿易家にして長崎代官・末次平蔵の放蕩息子、平左衛門。子供の頃から身の丈が自分の倍ほどもある南蛮人を片っ端から斬り倒して歩いていた悪童、平尾才介。この二人が、しかし、大変な傑物に成長するのだ。海運業だけでなく、平蔵の死後引き継いだ代官職を父以上に立派に務めあげる聡明な平左衛門。日本人、唐人、高麗人の区別なく接し、長崎に住む人々から絶大な信望を寄せられる火消し組の頭として活躍する才介。
大きな富をもたらす貿易の拠点として、様々な人物が私利私欲を肥やさんと長崎を食い物にする。そんな悪党どもの所業に苦しむ民を救うため、長崎を「誰もが、穏やかに、その日その日を生きて、家族や朋輩を愛し、隣人を尊んで、家柄やら生国やら、人種やら財やら、つまらぬことは一切こだわらず、ここに住み暮らす皆が助け合って居きられるようなそんな『約束の地』に」するため、知恵と勇気と俠気と慈愛をもって戦う二人の男の立ち回りを描いてドラマチック。読後、胸の中を清々しい風が吹き抜けていく。愚劣な政治家ばかりが幅をきかす現代においては、寓話としても機能するにちがいない、大変な傑作なんである。
【この読書日記が収録されている書籍】
『黄金旅風』はその『始祖鳥記』以来、四年ぶりとなる書き下ろし新作。江戸時代初期、南蛮貿易でにぎわう長崎に二人の大馬鹿者が生まれる。長崎における港務権の一切を掌握し、ポルトガルやイスパニア人はもちろん、イギリスやオランダ人からも「カピタン(貿易司令官)平蔵」と呼ばれ恐れられる朱印船貿易家にして長崎代官・末次平蔵の放蕩息子、平左衛門。子供の頃から身の丈が自分の倍ほどもある南蛮人を片っ端から斬り倒して歩いていた悪童、平尾才介。この二人が、しかし、大変な傑物に成長するのだ。海運業だけでなく、平蔵の死後引き継いだ代官職を父以上に立派に務めあげる聡明な平左衛門。日本人、唐人、高麗人の区別なく接し、長崎に住む人々から絶大な信望を寄せられる火消し組の頭として活躍する才介。
大きな富をもたらす貿易の拠点として、様々な人物が私利私欲を肥やさんと長崎を食い物にする。そんな悪党どもの所業に苦しむ民を救うため、長崎を「誰もが、穏やかに、その日その日を生きて、家族や朋輩を愛し、隣人を尊んで、家柄やら生国やら、人種やら財やら、つまらぬことは一切こだわらず、ここに住み暮らす皆が助け合って居きられるようなそんな『約束の地』に」するため、知恵と勇気と俠気と慈愛をもって戦う二人の男の立ち回りを描いてドラマチック。読後、胸の中を清々しい風が吹き抜けていく。愚劣な政治家ばかりが幅をきかす現代においては、寓話としても機能するにちがいない、大変な傑作なんである。
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