書評

『隆明だもの』(晶文社)

  • 2024/01/24
隆明だもの / ハルノ宵子
隆明だもの
  • 著者:ハルノ宵子
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(296ページ)
  • 発売日:2023-12-12
  • ISBN-10:4794973837
  • ISBN-13:978-4794973832
内容紹介:
吉本家は、薄氷を踏むような〝家族〞だった。戦後思想界の巨人と呼ばれる、父・吉本隆明。小説家の妹・吉本ばななそして俳人であった母・吉本和子――いったい4人はどんな家族だったのか。… もっと読む
吉本家は、薄氷を踏む
ような〝家族〞だった。

戦後思想界の巨人と呼ばれる、父・吉本隆明。
小説家の妹・吉本ばなな
そして俳人であった母・吉本和子――
いったい4人はどんな家族だったのか。
長女・ハルノ宵子が、父とのエピソードを軸に、
家族のこと、父と関わりのあった人たちのことなどを思い出すかぎり綴る。

『吉本隆明全集』の月報で大好評の連載を、加筆・修正のうえ単行本化。
吉本ばななとの初の姉妹対談(語りおろし)なども収録する。
【目次より】
じゃあな!
父の手
eyes
混合比率
ノラかっ
党派ぎらい
蓮と骨
あの頃
小さく稼ぐ
めら星の地より
お気持ち
ヘールボップ彗星の日々
ギフト
空の座
花見と海と忘年会
'96夏・狂想曲
幻の機械
魂の値段
境界を越える
ボケるんです!
非道な娘
片棒
銀河飛行船の夜
蜃気楼の地
Tの悲劇
孤独のリング
科学の子
形而上の形見
一片の追悼
手放す人
悪いとこしか似ていない
読む掟、書く掟

ハルノ宵子×吉本ばなな 姉妹対談
ハルノ宵子さんに聞く――父のこと、猫のこと、エッセイのこと

「対幻想」発生の現場は修羅場だった?

吉本隆明の長女で漫画家のハルノ宵子が父と母と過ごした日々を回想したエッセイに妹の吉本ばななとの姉妹対談などを付した一冊だが、PR誌で『共同幻想論』を解読しようと悪戦苦闘している私にとってはこれ以上にありがたい本はない。「ヘンな話、うちの家族は全員がちょっとした“サイキック”だ。(中略)父の場合は、ちょっと特殊だった。簡単に言ってしまえば、“中間”をすっ飛ばして『結論』が視える人だったのだ。(中略)無意識下で明確に見えている『結論』に向けて論理を構築していくのだから“吉本理論”は強いに決まっている」

ふーむ。これは凄い。まさに私が『共同幻想論』解読の末にようやく到達した結論と同じである。では、いったい、こうした吉本のサイキック(スピリチュアル)な能力はどこから来ているのか?

現代的な表現をするならば、一種の“高機能自閉症(サヴァン症候群)”だ。たぶん人間は、縄文期頃までは、普通に行使していたはずだ。(中略)たとえばネイティブアメリカンの族長を想像してみてほしい。なんとなく父のイメージと重なると思う。

論理とスピリチュアルは、決して相反するものではない。まずインスピレーションありきで、そこに経験や修練によって得た知識の強固な裏打ちがあってこそ、父はあそこまでの仕事ができたのだと思っている。

吉本スピリチュアル説! なるほどこれを用いると『共同幻想論』の難解な前半部分もわかりやすくなる。では後半の中核である対幻想についてはどうか? この点でも本書は最高の絵解きとなる。

父と母は、正反対のベクトルの強い力で反発し合いながら、同じ力で引き合い均衡を保っていた。お互い自分と同等のエネルギー値を持つ者は、この世に他に存在しないと、どこかで分かっていたのだと思う。

吉本と「同等のエネルギー値を持つ」とはどういう意味なのか? 後半に収められた姉妹対談を読むとわかる。病弱だったこともあり、料理が嫌いだった母和子が完璧を期してつくる料理の「恐怖」が語られているからだ。

吉本 「私、母に料理を作られると逆に恐怖だった」
(中略)
ハルノ 「そうですね。だから大晦日とかすごい恐怖だったわ」

こんな夫婦だったからこそ「対幻想」という画期的な概念が生まれたのだろうが、その発生の現場は修羅場であったに違いない。

吉本家は、薄氷を踏むような“家族”だった。父が10年に1度位荒れるのも、外的な要因に加えて、家がまた緊張と譲歩を強いられ、無条件に癒しをもたらす場ではなかった。

最晩年、糖尿病で眼と脚をやられ、認知症を併発した吉本は「薄闇に包まれた、肉体という牢獄の中に閉じ込められ」た存在になった。没する4、5カ月前、突然、玄関で物音がしたので駆けつけると外出の支度をした吉本がたたきに転がっている。これを見た著者は死の予感によって姿を消す猫の死に方を連想する。「最後には真の自由と孤独の時間を生きるために、すべての老人も出て行くのだと思う」

「族長」吉本は縄文人のような死に方を望んだのかもしれない。身内の回想とは位相を異にする、父親論にして最高の吉本論。


【オンライン視聴・現地参加可能:イベント情報】2024/01/26 (金) 19:00 - 20:30 ハルノ 宵子×鹿島茂 、ハルノ宵子『隆明だもの』(晶文社)を読む

書評アーカイブサイト・ALL REVIEWSのファンクラブ「ALL REVIEWS 友の会」の特典対談番組「月刊ALL REVIEWS」、第59回のゲストはハルノ宵子さん。メインパーソナリティーは鹿島茂さん。

https://allreviews.jp/news/6408
隆明だもの / ハルノ宵子
隆明だもの
  • 著者:ハルノ宵子
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(296ページ)
  • 発売日:2023-12-12
  • ISBN-10:4794973837
  • ISBN-13:978-4794973832
内容紹介:
吉本家は、薄氷を踏むような〝家族〞だった。戦後思想界の巨人と呼ばれる、父・吉本隆明。小説家の妹・吉本ばななそして俳人であった母・吉本和子――いったい4人はどんな家族だったのか。… もっと読む
吉本家は、薄氷を踏む
ような〝家族〞だった。

戦後思想界の巨人と呼ばれる、父・吉本隆明。
小説家の妹・吉本ばなな
そして俳人であった母・吉本和子――
いったい4人はどんな家族だったのか。
長女・ハルノ宵子が、父とのエピソードを軸に、
家族のこと、父と関わりのあった人たちのことなどを思い出すかぎり綴る。

『吉本隆明全集』の月報で大好評の連載を、加筆・修正のうえ単行本化。
吉本ばななとの初の姉妹対談(語りおろし)なども収録する。
【目次より】
じゃあな!
父の手
eyes
混合比率
ノラかっ
党派ぎらい
蓮と骨
あの頃
小さく稼ぐ
めら星の地より
お気持ち
ヘールボップ彗星の日々
ギフト
空の座
花見と海と忘年会
'96夏・狂想曲
幻の機械
魂の値段
境界を越える
ボケるんです!
非道な娘
片棒
銀河飛行船の夜
蜃気楼の地
Tの悲劇
孤独のリング
科学の子
形而上の形見
一片の追悼
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ハルノ宵子×吉本ばなな 姉妹対談
ハルノ宵子さんに聞く――父のこと、猫のこと、エッセイのこと

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年1月13日

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