文芸批評家はもう絶滅危惧種なのかもしれない。本書の読後感だ。
小林秀雄、吉本隆明、福田恆存。俊英の批評家が全力を傾け、文学の批評を通じて日本人の無意識を暴露し、混迷の読者に指針を示した。
それはもう昔のこと。人びとは自分の根拠(歴史や自然)を見失い、論争しようにも語る言葉がない。SNSで小さくまとまり、フェイクニュースや陰謀論に振り回される。
浜崎氏は若手の批評家。小林、吉本、福田の仕事を丁寧に読み解き、三人が何を課題としたかを浮き彫りにする。小林は≪分裂してしまった前近代と近代≫を、吉本は≪戦前と戦後≫を繋ごうとした。そして三人とも≪近代社会と自然との葛藤に折り合いをつけ≫ようとしたのだ。
本書はウェブ動画「テンミニッツTV」での連続講演が元になっている。短い時間で語り切る臨場感が小気味よい。かつては誰もがよく本を読んでいた。批評の全盛期だった。そんな往時とポストモダン以降のスマホとウェブの現代との隔たりを、批評の力で無理やり乗り越えてしまう。野心的な力業である。拍手。