書評

『女三人のシベリア鉄道』(集英社)

  • 2017/10/06
女三人のシベリア鉄道  / 森 まゆみ
女三人のシベリア鉄道
  • 著者:森 まゆみ
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(462ページ)
  • 発売日:2012-03-16
  • ISBN:4087468100
内容紹介:
与謝野晶子、宮本百合子、林芙美子。明治末から昭和初めの動乱期に、シベリア鉄道で大陸を横断した逞しい女性作家たちの足跡を辿り、著者もウラジオストクから鉄道で旅に出た。愛と理想に生きた三人に思いを馳せながら、パリを目指す。車中での食事、乗客とのふれあい、歴史の爪跡が残る街…世界で最も長い鉄道旅をめぐるエピソードの数々。三人と著者の旅が、時を超えて交錯する評伝紀行。

晶子、百合子、芙美子の旅を追う

鉄道の旅は、飛行機のフライトや自動車のドライブとは違い、しばしば人生にたとえられるものです。線路という一本の筋の始点と終点がはっきりしているからこそ、私達(たち)はそこに人生を重ねたくなるのでしょう。

『女三人のシベリア鉄道』は、明治の末から昭和のはじめにかけて、それぞれの理由でシベリア鉄道に乗った、与謝野晶子、宮本百合子、そして林芙美子の人生の旅を追った書。著者が実際にシベリア鉄道に乗車して三人の旅を検証した旅行記でもあるのですが、それら複雑な要素が、一冊の中に見事にまとまっているのです。

パリにいる夫に会うために、七人の子供を日本に置いてシベリア鉄道に乗った、晶子。離婚後、友とも恋人とも言える女性とともにロシアに旅立った、百合子。そして、夫を東京に残して、パリに住む別の男性に会いに行った、芙美子。それぞれの道中と人生の、何とエネルギーに満ちあふれていることか。

昔の女性と比べると、自分達は「進んで」いると私達は思いがちです。が、この時代に先端を生きる女性達の人生を見ると、私達よりずっと体力にも知性にも満ちあふれ、そして時にとっぴなほどの行動力を持っていることに驚くのです。

晶子達の時代に、女がシベリア鉄道で旅をするということは、今と比べものにならないほど勇気のいる行為でした。しかし彼女達は、それほどまでに強く求める何かを持っていたのであり、その「強く求める気持ち」は、あらゆる門戸が女性に開かれ、何をするのも自由という今を生きる女性達には、もう持ち得ないものなのではないかという気もしてくるのです。

著者はシベリア鉄道に揺られながら、三人の女性の人生に、自分の人生を重ね合わせていきます。合わせて四人の女性の人生が線路の上には見え隠れするのですが、ふと気が付けば読んでいる自分も、今までの人生のあれやこれやをそこに絡ませているのであり、ガタンゴトンという単純そうでいて複雑な響きが、読んでいる間中、心地よく聞こえてくるのでした。
女三人のシベリア鉄道  / 森 まゆみ
女三人のシベリア鉄道
  • 著者:森 まゆみ
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(462ページ)
  • 発売日:2012-03-16
  • ISBN:4087468100
内容紹介:
与謝野晶子、宮本百合子、林芙美子。明治末から昭和初めの動乱期に、シベリア鉄道で大陸を横断した逞しい女性作家たちの足跡を辿り、著者もウラジオストクから鉄道で旅に出た。愛と理想に生きた三人に思いを馳せながら、パリを目指す。車中での食事、乗客とのふれあい、歴史の爪跡が残る街…世界で最も長い鉄道旅をめぐるエピソードの数々。三人と著者の旅が、時を超えて交錯する評伝紀行。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2009年05月03日

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