書評

『物数寄考: 骨董と葛藤』(平凡社)

  • 2018/06/23
物数寄考: 骨董と葛藤 / 松原 知生
物数寄考: 骨董と葛藤
  • 著者:松原 知生
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:単行本(375ページ)
  • 発売日:2014-03-08
  • ISBN:4582268080
内容紹介:
川端康成、小林秀雄、青柳瑞穂、安東次男、つげ義春、杉本博司の6人を取り上げ、その古美術愛好の本質を、超越的な断言や印象批評的な情語ではなく、一箇の感性論として語る、気鋭の美術史家による意欲的な一書。

逆説で解く「骨董文学」の系譜

骨董というものがあり、もちろん文学があるとして、では骨董文学というものが存在するか。たとえばどの作家のどの作がそれか。大正から昭和の全体、平成の今にいたる骨董文学の系譜考として貴重な仕事である。川端康成と小林秀雄の絵皿や壺器への入れ込み方は伝説的だし、青柳瑞穂、安東次男の骨董趣味は隠れもない。分量的にもバランスのとれた目次案には文句のつけようがない上に、漫画家、つげ義春の古物好き、博物写真家、杉本博司の現在まで入ってきて、相手が狭義の文学でなく広くテキスト全体なのだと判(わか)る(荒俣宏とか、みうらじゅんも欲しいところ)。

漫画の図像分析など実に緻密だ。それもそのはず、著者はいわゆるポスト構造主義批評の洗礼を浴びた美術史学のこの30年ほどの新動向の申し子、ないし代表格の一人なので、軽いフットワークの新しいタイプの研究者がよりによって骨董の世界を扱う、しかもその道のくろうとはだしの手つきで扱っていくというこの組合せがおもしろい。

骨董の世界で「おもしろい」と言えば、ひょっとしたら贋物(にせもの)かもしれないというあざとい地点で、しかしなお相手を愛そうとする時の評言だ、とある。本書の面白さもそこで、いわばこの本自体がついには著者の言う骨董たり、骨董文学の名作なのだという感想を抱かせる。だれが見ても骨董文学というテキストを読み解きながら、みずからも骨董の逸品と化してみせる。こういうメタ批評の相手として骨董とはまた何とぴったりの相手であるか。この発見こそまさに掘出しもの。そうか掘出しものという言い方も骨董の方の用語なのだ。言葉の普通の意味と骨董の方で使う意味との間、というか融通で奔放に遊び、それを高速に批評に仕上げていく手つきの新世代的軽みが快い。それが骨董と結びつけられている組合せがいかにも逆説的で、「おもしろい」!

そう、逆説と、逆説を生彩(せいさい)あらしめる場としての境界という観念が本書を一貫する大主題だ。新しい時代に古い時代を愛(め)でる。新旧とか真贋(しんがん)とか、視覚対触覚といった硬直した二元論の連続をどう克服するか(骨董と葛藤!)、それこそ澁澤龍●(偐のつくり)や種村季弘など「物数寄考」の先達が発見した「マニエリスム」美学の眼目だった。グローバル化する時代の不安が小さい物への執着をうみ、寄物陳思の文学をうむ。著者に倣って言葉遊びすれば、マヌス(手)に由来するマニエリスム自体が大戦乱の後の、「言葉と物」の分裂の時代に必ず出現する壮大な骨董美学だったのかもしれない。
物数寄考: 骨董と葛藤 / 松原 知生
物数寄考: 骨董と葛藤
  • 著者:松原 知生
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:単行本(375ページ)
  • 発売日:2014-03-08
  • ISBN:4582268080
内容紹介:
川端康成、小林秀雄、青柳瑞穂、安東次男、つげ義春、杉本博司の6人を取り上げ、その古美術愛好の本質を、超越的な断言や印象批評的な情語ではなく、一箇の感性論として語る、気鋭の美術史家による意欲的な一書。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2014年4月6日

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