書評

『ハモの旅、メンタイの夢――日韓さかな交流史』(岩波書店)

  • 2022/07/04
ハモの旅、メンタイの夢――日韓さかな交流史 / 竹国 友康
ハモの旅、メンタイの夢――日韓さかな交流史
  • 著者:竹国 友康
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(272ページ)
  • 発売日:2013-07-26
  • ISBN-10:4000244736
  • ISBN-13:978-4000244732
内容紹介:
京都の夏の風物詩といえばハモである。しかし、その高級品が韓国から輸入されていることはあまり知られていない。また、朝鮮を代表するさかな、メンタイ(スケトウダラ)は朝鮮半島近海では獲れ… もっと読む
京都の夏の風物詩といえばハモである。しかし、その高級品が韓国から輸入されていることはあまり知られていない。また、朝鮮を代表するさかな、メンタイ(スケトウダラ)は朝鮮半島近海では獲れなくなり、ロシアや日本などから輸入されるようになった。このような日本と韓国の間でのさかな交流の現状をはじめ、植民地期の日本人の漁業が朝鮮在来の漁業に与えた影響、朝鮮産魚類研究の先覚者、内田恵太郎、鄭文基の業績の意味などを現地取材と史料で明らかにするドキュメンタリー。

海を挟んだ豊かな交流をたぐる

日本からはスケトウダラやヌタウナギが、韓国からはヒラメやハモやアナゴが、毎日海峡をまたいで大量に行き来する。京都のハモ料理の上物は韓国産だし、釜山名物のコムジャンオクイは日本産のヌタウナギを焼いたものだ。

意外と知られていないこの事実が発端にあった。明太(ミョンテ=スケトウダラ)は朝鮮の「正系の魚」、その干物は朝鮮の祭祀(さいし)になくてはならないものだった。コムジャンオクイという庶民料理の普及には、朝鮮戦争時に釜山に避難してきた人びとの生活難があった。そして魚類の交易には、日本統治期における水産技術開発・魚類学研究と、解放後の市場経済の強圧とが、前史としてあった。

事件で語られる日韓関係ではなく、日々の交易の現場で見ること、聴くことから始めた著者は、日韓各地に散在する資料を読み込むなかで、〈開発〉か〈収奪〉かという歴史論争の背後に、それらがともに前提している「成長」の論理を見抜く。自分たちが食べるためでなく、ましてや神に捧げるためでもなく、「売るため」だけに魚たちを獲(と)る、そのような「成長」と「領有」の発想が、「無主の海」という公共性と、魚たちとともにある人びとの海を挟んだ豊かな交流を崩した、と。

足元にある小さな事実から出発し、だれも踏み込んだことのない森に分け入り、膨大な聴き取りと資料の検索を手弁当でやり続けるなか、発端の事実がうんと厚い遠近法のなかに置きなおされ、そしてそこから是が非でも守らなければならないものが見えてくる……。そんな「調べること」のすがすがしさを、この書物に感じた。と同時に、大学における学術研究のいくばくかの頽廃(たいはい)を思った。

歴史を読むことは、人びとと関係を紡いでゆくことから始まる。米国の日系人社会を論じた『リトルトウキョウ物語』以来35年間、著者のこの姿勢は揺るがない。
ハモの旅、メンタイの夢――日韓さかな交流史 / 竹国 友康
ハモの旅、メンタイの夢――日韓さかな交流史
  • 著者:竹国 友康
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(272ページ)
  • 発売日:2013-07-26
  • ISBN-10:4000244736
  • ISBN-13:978-4000244732
内容紹介:
京都の夏の風物詩といえばハモである。しかし、その高級品が韓国から輸入されていることはあまり知られていない。また、朝鮮を代表するさかな、メンタイ(スケトウダラ)は朝鮮半島近海では獲れ… もっと読む
京都の夏の風物詩といえばハモである。しかし、その高級品が韓国から輸入されていることはあまり知られていない。また、朝鮮を代表するさかな、メンタイ(スケトウダラ)は朝鮮半島近海では獲れなくなり、ロシアや日本などから輸入されるようになった。このような日本と韓国の間でのさかな交流の現状をはじめ、植民地期の日本人の漁業が朝鮮在来の漁業に与えた影響、朝鮮産魚類研究の先覚者、内田恵太郎、鄭文基の業績の意味などを現地取材と史料で明らかにするドキュメンタリー。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2013年09月22日

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