書評

『読むのが怖い! 2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド』(ロッキング・オン)

  • 2023/01/26
読むのが怖い! 2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド / 北上 次郎,大森 望
読むのが怖い! 2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド
  • 著者:北上 次郎,大森 望
  • 出版社:ロッキング・オン
  • 装丁:単行本(327ページ)
  • 発売日:2005-03-31
  • ISBN-10:4860520505
  • ISBN-13:978-4860520502
内容紹介:
SF、青春小説、ライトノベル、歴史小説、果てはタレント・エッセイ集――世に溢れるエンタメ本の数々、「面白いのを読みたいけど、いったい何を、どう読めばいいの?」と嘆く人に、2005年、最強… もっと読む
SF、青春小説、ライトノベル、歴史小説、果てはタレント・エッセイ集――世に溢れるエンタメ本の数々、「面白いのを読みたいけど、いったい何を、どう読めばいいの?」と嘆く人に、2005年、最強のエンタメ・ブック・ガイドが遂に登場!『本の雑誌』を立ち上げた、“日本で最も有名な活字中毒者”目黒考二こと北上次郎、そして翻訳家にして評論家、最近は『文学賞メッタ斬り!』『ライトノベル☆めった斬り!』シリーズが評判を呼ぶ大森望の2人が、自分のオススメ本をお互いに持ち寄り、圧倒的な読解力と喧々諤々ぶりで超難解小説からベストセラーまでを一刀両断するトーク・バトル・ブック・ガイド。特別語り下ろし対談も収録。2000年代のエンタメ系必読本200冊以上を徹底解読できる一冊。ここまで親切で、笑えて、そして怖い(?)ブック・ガイドは他にはありません!
大森望はわたしの言い間違えを常に正してやまない。

「トヨザキさん、如才ないは“にょさいない”じゃなくて“じょさいない”だから。突如は“とつじょ”でしょ。“とつにょ”って読まないでしょ」

……でも、真如苑は“しんにょえん”で“しんじょえん”じゃないもん。心の中で言い返しながらも、いつも頭が上がらないオデなんであります。

たいていの場合、発言が正確で、自分の意見を決して曲げることがない。そんな負けず嫌い王・大森望と二一世紀に入ってのエンタメ本&ベストセラーについて語りあうのは、娯楽小説書評界の王・北上次郎。ところが、普段書いている書評からは想像もつかないほど、この本ではお茶目な表情を見せているんでありますの。そこが意外で愉快。抜群の記憶力を誇る望くんに対して、自分の書いた解説の内容もすっかり忘れている次郎くん。まさに理想のツッコミとボケと申せましょう。

たとえば白川道の陳腐な通俗小説『天国への階段』を取り上げて、作中におけるレッド・ツェッペリンの扱いに愕然としたと語る望くんに対しての、次郎くんの反応はこう。

「なあに、それ?」

ツェッペリンを知らない次郎くん。知らないことをまるで意に介さない次郎くん。爆笑するしかない物知り博士の望くん。でも、そんな大ボケかます次郎くんも、こと小説の解釈をめぐっては譲りません。五十嵐貴久の野球小説『1985年の奇跡』で描かれている八五年当時の風俗を、「夕やけニャンニャン」を録画してまで見ていた自分にとって違和感があると批判する望くんの言い分を延々と聞いた末に、次郎くんが放つ一言。

「君はね、勘違いしてますよ、この小説を」

でもって次郎くんは、八五年は「夕やけニャンニャン」の年ではなく阪神タイガースが優勝した年だと高らかに宣言し、この小説が「タイガースが優勝しそうな二〇〇三年に出版」されることに意義があると主張してやまないんでありますの。どっちもどっちのバカバカしさ(笑)。オデ、好きだなあ、大の大人がたかが本をめぐって、あーでもないこーでもないって負けじ魂炸裂させあう図って。

とんでもない読書量と軸がブレない自分なりの読みの基準ゆえに信頼に値する二人の漫才のようなやり取りの中から、ちゃんと当の本の面白さなり欠点なりが浮かび上がってくる。『読むのが怖い!』は、そのタイトルに反して読むのが楽しい、絶好のガイド本なんであります。

しかし、腹の中が真っ黒だな、大森望は。

【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

読むのが怖い! 2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド / 北上 次郎,大森 望
読むのが怖い! 2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド
  • 著者:北上 次郎,大森 望
  • 出版社:ロッキング・オン
  • 装丁:単行本(327ページ)
  • 発売日:2005-03-31
  • ISBN-10:4860520505
  • ISBN-13:978-4860520502
内容紹介:
SF、青春小説、ライトノベル、歴史小説、果てはタレント・エッセイ集――世に溢れるエンタメ本の数々、「面白いのを読みたいけど、いったい何を、どう読めばいいの?」と嘆く人に、2005年、最強… もっと読む
SF、青春小説、ライトノベル、歴史小説、果てはタレント・エッセイ集――世に溢れるエンタメ本の数々、「面白いのを読みたいけど、いったい何を、どう読めばいいの?」と嘆く人に、2005年、最強のエンタメ・ブック・ガイドが遂に登場!『本の雑誌』を立ち上げた、“日本で最も有名な活字中毒者”目黒考二こと北上次郎、そして翻訳家にして評論家、最近は『文学賞メッタ斬り!』『ライトノベル☆めった斬り!』シリーズが評判を呼ぶ大森望の2人が、自分のオススメ本をお互いに持ち寄り、圧倒的な読解力と喧々諤々ぶりで超難解小説からベストセラーまでを一刀両断するトーク・バトル・ブック・ガイド。特別語り下ろし対談も収録。2000年代のエンタメ系必読本200冊以上を徹底解読できる一冊。ここまで親切で、笑えて、そして怖い(?)ブック・ガイドは他にはありません!

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2002年5月28日号

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
豊崎 由美の書評/解説/選評
ページトップへ