書評
『読むのが怖い! 2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド』(ロッキング・オン)
大森望はわたしの言い間違えを常に正してやまない。
「トヨザキさん、如才ないは“にょさいない”じゃなくて“じょさいない”だから。突如は“とつじょ”でしょ。“とつにょ”って読まないでしょ」
……でも、真如苑は“しんにょえん”で“しんじょえん”じゃないもん。心の中で言い返しながらも、いつも頭が上がらないオデなんであります。
たいていの場合、発言が正確で、自分の意見を決して曲げることがない。そんな負けず嫌い王・大森望と二一世紀に入ってのエンタメ本&ベストセラーについて語りあうのは、娯楽小説書評界の王・北上次郎。ところが、普段書いている書評からは想像もつかないほど、この本ではお茶目な表情を見せているんでありますの。そこが意外で愉快。抜群の記憶力を誇る望くんに対して、自分の書いた解説の内容もすっかり忘れている次郎くん。まさに理想のツッコミとボケと申せましょう。
たとえば白川道の陳腐な通俗小説『天国への階段』を取り上げて、作中におけるレッド・ツェッペリンの扱いに愕然としたと語る望くんに対しての、次郎くんの反応はこう。
「なあに、それ?」
ツェッペリンを知らない次郎くん。知らないことをまるで意に介さない次郎くん。爆笑するしかない物知り博士の望くん。でも、そんな大ボケかます次郎くんも、こと小説の解釈をめぐっては譲りません。五十嵐貴久の野球小説『1985年の奇跡』で描かれている八五年当時の風俗を、「夕やけニャンニャン」を録画してまで見ていた自分にとって違和感があると批判する望くんの言い分を延々と聞いた末に、次郎くんが放つ一言。
「君はね、勘違いしてますよ、この小説を」
でもって次郎くんは、八五年は「夕やけニャンニャン」の年ではなく阪神タイガースが優勝した年だと高らかに宣言し、この小説が「タイガースが優勝しそうな二〇〇三年に出版」されることに意義があると主張してやまないんでありますの。どっちもどっちのバカバカしさ(笑)。オデ、好きだなあ、大の大人がたかが本をめぐって、あーでもないこーでもないって負けじ魂炸裂させあう図って。
とんでもない読書量と軸がブレない自分なりの読みの基準ゆえに信頼に値する二人の漫才のようなやり取りの中から、ちゃんと当の本の面白さなり欠点なりが浮かび上がってくる。『読むのが怖い!』は、そのタイトルに反して読むのが楽しい、絶好のガイド本なんであります。
しかし、腹の中が真っ黒だな、大森望は。
【この書評が収録されている書籍】
「トヨザキさん、如才ないは“にょさいない”じゃなくて“じょさいない”だから。突如は“とつじょ”でしょ。“とつにょ”って読まないでしょ」
……でも、真如苑は“しんにょえん”で“しんじょえん”じゃないもん。心の中で言い返しながらも、いつも頭が上がらないオデなんであります。
たいていの場合、発言が正確で、自分の意見を決して曲げることがない。そんな負けず嫌い王・大森望と二一世紀に入ってのエンタメ本&ベストセラーについて語りあうのは、娯楽小説書評界の王・北上次郎。ところが、普段書いている書評からは想像もつかないほど、この本ではお茶目な表情を見せているんでありますの。そこが意外で愉快。抜群の記憶力を誇る望くんに対して、自分の書いた解説の内容もすっかり忘れている次郎くん。まさに理想のツッコミとボケと申せましょう。
たとえば白川道の陳腐な通俗小説『天国への階段』を取り上げて、作中におけるレッド・ツェッペリンの扱いに愕然としたと語る望くんに対しての、次郎くんの反応はこう。
「なあに、それ?」
ツェッペリンを知らない次郎くん。知らないことをまるで意に介さない次郎くん。爆笑するしかない物知り博士の望くん。でも、そんな大ボケかます次郎くんも、こと小説の解釈をめぐっては譲りません。五十嵐貴久の野球小説『1985年の奇跡』で描かれている八五年当時の風俗を、「夕やけニャンニャン」を録画してまで見ていた自分にとって違和感があると批判する望くんの言い分を延々と聞いた末に、次郎くんが放つ一言。
「君はね、勘違いしてますよ、この小説を」
でもって次郎くんは、八五年は「夕やけニャンニャン」の年ではなく阪神タイガースが優勝した年だと高らかに宣言し、この小説が「タイガースが優勝しそうな二〇〇三年に出版」されることに意義があると主張してやまないんでありますの。どっちもどっちのバカバカしさ(笑)。オデ、好きだなあ、大の大人がたかが本をめぐって、あーでもないこーでもないって負けじ魂炸裂させあう図って。
とんでもない読書量と軸がブレない自分なりの読みの基準ゆえに信頼に値する二人の漫才のようなやり取りの中から、ちゃんと当の本の面白さなり欠点なりが浮かび上がってくる。『読むのが怖い!』は、そのタイトルに反して読むのが楽しい、絶好のガイド本なんであります。
しかし、腹の中が真っ黒だな、大森望は。
【この書評が収録されている書籍】