書評

『須賀敦子の手紙 1975―1997年 友人への55通』(つるとはな)

  • 2023/02/01
須賀敦子の手紙 1975―1997年 友人への55通 / 須賀 敦子
須賀敦子の手紙 1975―1997年 友人への55通
  • 著者:須賀 敦子
  • 出版社:つるとはな
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2016-05-28
  • ISBN-10:4908155038
  • ISBN-13:978-4908155031
内容紹介:
雑誌「つるとはな」で大きな話題となった未公開書簡の完全収録版。須賀敦子は1967年に夫ペッピーノを失い、70年に父を、72年に母を失った。帰国してまもない須賀は、深まる孤独のなかで生涯… もっと読む
雑誌「つるとはな」で大きな話題となった未公開書簡の完全収録版。

須賀敦子は1967年に夫ペッピーノを失い、70年に父を、72年に母を失った。
帰国してまもない須賀は、深まる孤独のなかで生涯の友人と出会う。
その友情はやがて、四半世紀にわたりつづくものとなっていった。
こころを許した友人への手紙には、須賀の迷いや悩みが率直につづられている。
ときにはさりげなく、恋の終わりが打ち明けられることもあった。
55通の手紙を、青インクの筆跡もリアルな高精度カラー写真で掲載。

須賀敦子の全集未収録のエッセイ「おすまさんのこと」。
北村良子(須賀敦子・妹)へのインタビュー「姉の手紙」。
スマ&ジョエル・コーン夫妻へのインタビュー「須賀敦子とのこと」。
松山巖のエッセイ「コーン夫妻への手紙を読んで」も収録。

未公開のままだった40通も、本書に初めて掲載しています。

写真…久家靖秀
アートディレクション…有山達也

「語り」聞こえるまろやかな直筆

最初の著作が出たのが六十一歳、八年後に他界し、生前の著書はわずか五冊。にもかかわらず、没後に書簡と日記と詳細な年譜を含む全集八巻が刊行。須賀敦子の人生は驚きに満ちているが、最近、全集にも載っていない新たな事実が周囲をあっと言わせた。

イタリアから帰国後、ひと回り以上歳の若い女性と知り合う。「すまさん」こと大橋須磨子は間もなくアメリカ人と結婚、渡米。以来、二十二年にわたって須賀が書き送った書簡が、文面や封書の複写写真と共にまとめられた。ヨーロッパ文明に惹(ひ)かれた須賀がアメリカの友人とこれほど深い関係を持っていたのは正直意外で、しかも四度の訪問でアメリカを好きになっていたのにびっくり。

手紙の内容はシンプルだが、忙しすぎて部屋が混乱状態なのを「家の中に交通巡査をひとりやとって置くか」と言ったり、参院選の候補者を「これくらいならうちのメダカでも当選する」とか、「インテリという水たまりに落ちないように――生きたい」とか、描写が図抜けて突飛でユーモラス。まろやかな直筆からは言葉のリズムや息継ぎ、声すらも聞こえてきそうだ。改めて須賀の文学の特徴は「語り」にあると思った。

ふつう書簡が刊行されるのは大作家で、活動期の短い書き手の手紙が複写つきで出るのは珍しい。須賀への関心の高さがわかるが、作品が小説ではなく回想記のスタイルで書かれたことは大きいかもしれない。人生の締めくくりを意識する年齢に、自身の体験を普遍化する意識を傾けて物語った。そこに読者は切実な声を聞き取り、探偵のようにその実像を追うことが、作品を読むのと同様の楽しみになったのだ。

最期を看取った妹さんもこんなに親しい友人がいたとはと驚く。口外しなかったのは秘密の物語として心中に留めておきたい気持ちが多少あったからか。もしそうなら謎はこれで終わりではないのかもしれない。
須賀敦子の手紙 1975―1997年 友人への55通 / 須賀 敦子
須賀敦子の手紙 1975―1997年 友人への55通
  • 著者:須賀 敦子
  • 出版社:つるとはな
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2016-05-28
  • ISBN-10:4908155038
  • ISBN-13:978-4908155031
内容紹介:
雑誌「つるとはな」で大きな話題となった未公開書簡の完全収録版。須賀敦子は1967年に夫ペッピーノを失い、70年に父を、72年に母を失った。帰国してまもない須賀は、深まる孤独のなかで生涯… もっと読む
雑誌「つるとはな」で大きな話題となった未公開書簡の完全収録版。

須賀敦子は1967年に夫ペッピーノを失い、70年に父を、72年に母を失った。
帰国してまもない須賀は、深まる孤独のなかで生涯の友人と出会う。
その友情はやがて、四半世紀にわたりつづくものとなっていった。
こころを許した友人への手紙には、須賀の迷いや悩みが率直につづられている。
ときにはさりげなく、恋の終わりが打ち明けられることもあった。
55通の手紙を、青インクの筆跡もリアルな高精度カラー写真で掲載。

須賀敦子の全集未収録のエッセイ「おすまさんのこと」。
北村良子(須賀敦子・妹)へのインタビュー「姉の手紙」。
スマ&ジョエル・コーン夫妻へのインタビュー「須賀敦子とのこと」。
松山巖のエッセイ「コーン夫妻への手紙を読んで」も収録。

未公開のままだった40通も、本書に初めて掲載しています。

写真…久家靖秀
アートディレクション…有山達也

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2016年8月7日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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