内容紹介

『キャシーと河馬』(Planeta Pub Corp)

  • 2022/10/18
Kathie Y El Hipopotamo / Kathie and the Hippopotamus / Vargas Llosa, Mario
Kathie Y El Hipopotamo / Kathie and the Hippopotamus
  • 著者:Vargas Llosa, Mario
  • 出版社:Planeta Pub Corp
  • 装丁:ペーパーバック(0ページ)
  • 発売日:1995-09-01
  • ISBN-10:8432204757
  • ISBN-13:978-8432204753
最近、ラテンアメリカの中堅作家たちが戯曲を手がけているのが目につく(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1983年)。一昨年はバルガス=リョサが『タクナの娘』を、昨年はフエンテスが『月下の蘭』を発表し、今年は、未見だが、プイグの戯曲集が刊行されるとともに、再びバルガス=リョサが、二幕物のファルス、『キャシーと河馬』(セイクス・バラール社)を出した。またこの作品は、四月にカラカスの第六回世界演劇祭で上演されている。『タクナの娘』が同じ作者の長篇『フリア伯母さんとヘボ作家』と多くの点で共通しているのに対し、今度の戯曲は『ラ・カテドラルでの対話』と共通点を持っている。まず、舞台がリマであること、登場人物四人の中に、『ラ・カテドラルでの対話』の主人公サンティアーゴとその妻アナと同名の人物が含まれていること、そして、現実を多層的に捉えようとしていること、など。

時は六十年代、場所はリマにある、パリのそれに見立てた屋根裏部屋。銀行家の妻キャシーはその部屋にサンティアーゴを呼び、毎日二時間、アフリカ・アジア旅行記を口述し、手を入れさせる作業をしている。サンティアーゴは、しがない新聞記者で、大学でスペインの古典文学を講じている。一方、キャシーは、銀行とサーフィンと女にしか関心がない夫のフアンや低能の子供たちに愛想をつかし、屋根裏部屋にいるときにだけ、文化の欠如したリマの生活を忘れることができた。だから二人にとって、旅行記を作る二時間は、嘘をつき合い、現実逃避を可能にする、快いひとときであった。だいいちキャシーという名前自体、作家らしく響くペンネームなのだ。そんなある日、作業中にフアンが闖入する。さらにアナも現れる。この二人、実はキャシーとサンティアーゴの意識の産物なのだが、ともあれ彼らの参加により舞台はドタバタ調になる一方、人間関係は複雑になる。つまりそれぞれが互いの仮面を剥がし合うことにより、現実が虚偽に満ちたものであったことがにわかに露呈するのだ。しかも、キャシーがサンティアーゴの愛人学生を、サンティアーゴがキャシーのかつての恋人役を演じ、アナとフアンがキャシーの子供役を演じるとき、舞台は現実と虚構の入り混じったカオス、すなわち〈全体〉と化し、活気を帯びる。河馬というのはアナの科白に由来している。彼女はサンティアーゴを、虎でも食べそうなほど強そうに見えるが、それは見かけで、実際は虫や小鳥しか食べない河馬に似ていると決めつけるのだ。つまり、河馬は、見せかけの現実の象徴ということになるだろう。結局、幻影のフアンはキャシーに介助されてピストル自殺した後、アナに助けられて退場、残ったキャシーとサンティアーゴは連帯意識を持ち、互いに嘘つきごっこの相棒であることを確認して、舞台は幕となる。前作では物語の発生過程をテーマにしていたのに対し、今回は、実人生と虚構の関係が、作品の真のテーマとなっている。
Kathie Y El Hipopotamo / Kathie and the Hippopotamus / Vargas Llosa, Mario
Kathie Y El Hipopotamo / Kathie and the Hippopotamus
  • 著者:Vargas Llosa, Mario
  • 出版社:Planeta Pub Corp
  • 装丁:ペーパーバック(0ページ)
  • 発売日:1995-09-01
  • ISBN-10:8432204757
  • ISBN-13:978-8432204753

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初出メディア

海(終刊)

海(終刊) 1983年12月1日

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