書評

『ララバイ』(早川書房)

  • 2024/08/15
ララバイ / チャック・パラニューク
ララバイ
  • 著者:チャック・パラニューク
  • 翻訳:池田 真紀子
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:単行本(281ページ)
  • 発売日:2005-03-24
  • ISBN-10:4152086238
  • ISBN-13:978-4152086235
内容紹介:
古代より伝わる「死の歌」は僕たちの世界を滅ぼすのか?乳幼児ぽっくり病の取材を進める新聞記者ストリーターは奇妙な事実に突き当たる。死亡した赤ん坊たちの家にはすべて、『世界の詩と歌』と… もっと読む
古代より伝わる「死の歌」は僕たちの世界を滅ぼすのか?乳幼児ぽっくり病の取材を進める新聞記者ストリーターは奇妙な事実に突き当たる。死亡した赤ん坊たちの家にはすべて、『世界の詩と歌』という本が置かれていたのだ。やがて、その中の一篇、アフリカ起源の子守歌に聴いた者を瞬時に殺害する魔力があると判明する。もし、この歌がラジオやテレビで流されたら?電話一本で証拠もなく誰かを殺せてしまうとしたら?僕たちが聴く音という音に歌が混じるかもしれないとしたら?戦慄に身を震わすストリーターは、この「間引きの歌」の秘密を知る魔女崇拝者のモナ、環境テロリストのオイスター、そして幽霊屋敷専門の不動産業者のヘレンとともに現存するすべての『世界の詩と歌』を処分するアメリカ横断の旅にでる。
乳幼児突然死症候群の取材をしていた新聞記者のストリーターは、死亡した赤ん坊の親たちが全員『世界の詩と歌』という本を図書館から借りていたという事実を突き止める。やがて、その中の一編、アフリカ起源の子守歌には、聴いたものを秒殺する魔力があることが判明。もし、この歌がラジオやテレビで流されてしまったら? ストリーターは「間引きの歌」の秘密を知る幽霊屋敷専門の不動産業者ヘレンや、魔女崇拝者のモナ、環境テロリストのオイスターと共に、聴覚を介して伝染する疫病ともいうべき歌が載っている詩集をすべて処分するため、アメリカ横断の旅に出るのだが――。

暴力、セックス、信仰といった、人間の根源的な欲望に抵触するテーマの真芯を刺し貫く問題小説ばかりを世に問うチャック・パラニュークの新作が描くのは、命の対価がとんでもなく安くなった世界の荒廃と、「それでもここには愛が残ってるんだぜえぇっ」という破れかぶれだけど切実な魂の叫びなのである。絶対的権力を持つ堕落した支配者たちが、自分たちの悪徳を隠蔽するために、大衆の想像力を退化させるよう画策し続けているこの腐った世界にあって、「間引きの歌」を手に入れたら、わたしは、あなたは、どうするだろう。そんな危険な夢想から生まれた小説なのだ。

エキセントリックな登場人物が跋扈(ばっこ)するこのロード・ノベルは、暴力や殺意の行使の正否を問いかけ、剣呑(けんのん)な小説だ。まさに今だから書かれ、読まれるべき作品。死んだほうが世のため人のためになる悪党がいたとして、そいつを間引かないでいい理由がどこにあるのだろう。読んでしまったが最後、そんなリスキーな問いかけが頭から離れなくなる。無視できないほど危うい魅力を放つデスソングであると同時に、ストリーターとヘレンをめぐる歪(いびつ)な愛を描いた究極のラブソング。死と愛という古典的なテーマを内包しながら、二十一世紀にしか生まれようがなかった新しい小説なのである。

【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ララバイ / チャック・パラニューク
ララバイ
  • 著者:チャック・パラニューク
  • 翻訳:池田 真紀子
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:単行本(281ページ)
  • 発売日:2005-03-24
  • ISBN-10:4152086238
  • ISBN-13:978-4152086235
内容紹介:
古代より伝わる「死の歌」は僕たちの世界を滅ぼすのか?乳幼児ぽっくり病の取材を進める新聞記者ストリーターは奇妙な事実に突き当たる。死亡した赤ん坊たちの家にはすべて、『世界の詩と歌』と… もっと読む
古代より伝わる「死の歌」は僕たちの世界を滅ぼすのか?乳幼児ぽっくり病の取材を進める新聞記者ストリーターは奇妙な事実に突き当たる。死亡した赤ん坊たちの家にはすべて、『世界の詩と歌』という本が置かれていたのだ。やがて、その中の一篇、アフリカ起源の子守歌に聴いた者を瞬時に殺害する魔力があると判明する。もし、この歌がラジオやテレビで流されたら?電話一本で証拠もなく誰かを殺せてしまうとしたら?僕たちが聴く音という音に歌が混じるかもしれないとしたら?戦慄に身を震わすストリーターは、この「間引きの歌」の秘密を知る魔女崇拝者のモナ、環境テロリストのオイスター、そして幽霊屋敷専門の不動産業者のヘレンとともに現存するすべての『世界の詩と歌』を処分するアメリカ横断の旅にでる。

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初出メディア

産経新聞

産経新聞 2005年5月2日

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