書評
『貧困待ったなし!――とっちらかりの10年間』(岩波書店)
親密な場所と組織化の矛盾
この社会の貧困の問題に最底辺のところで対応してきた支援グループの、あまりに率直な、そして考えぬかれた地声の中間総括である。所持金・平均500円で、何もかもが立ちゆかなくなった人びと。その人たちのための定例相談会と、ホームレスの人にとって最難関の問題であるアパート入居時の連帯保証から始めた活動は、やがてネットカフェ難民、虐待から逃げてきた人など相談者も激増して「野戦病院化」するとともに、個人の自由な集まりから組織への移行・拡大を避けられなくなる。その間にスタッフが経験したディレンマはとてつもなく重い。
だれでも入ってゆける小さくて緩くて親密な場所は、濃すぎれば煮詰まる。が、組織化すれば、問題の核にある「人間関係の貧困」への対応がいやでも疎(おろそ)かになる。反貧困は一つのネットワークで担いきれるものではない。この先にある「独りにならずに1人で暮らせる」社会という課題に無縁でいられる人はいない。
朝日新聞 2012年5月6日
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