前書き
『語り継がれる 人類の「悲劇の記憶」百科図鑑: 災害、戦争から民族、人権まで』(原書房)
人類が歩んできた歴史には、「負」の遺産と呼ばれるものがある。災害遺産、戦争遺跡から、いまなお人々に影響を与えている痕跡まで、誰もが向き合うべき歴史と現実を焼き付けた書籍『語り継がれる 人類の「悲劇の記憶」百科図鑑』より、一部を特別公開します。
どの国も、短い背景情報で始まり、そのあとに目的地の記事が続く。一部の記事、とくにいくつかの小さい島々は、目的地と国の両方を説明している。それらには、イギリスの海外領土であるフォークランド諸島やジブラルタルのような完全な主権国家ではなく、他国の属領も含まれる。しかし、「本国」から地理的に(そして、ある程度は政治的にも歴史的にも)離れているため、単独の目的地として扱われている。また、本書が印刷に回される時点で紛争が終結しておらず、独立国として国際的な認知が不十分なトランスニストリアやナゴルノ・カラバフのような「分離国家」もこれに当てはまる。
各目的地の記事には、所在地、カテゴリー、2種類の評価が記載されている。1つ目は一般的な「クォリティ評価」であり、アクセスしやすいか、訪問者用の設備が充実しているか、多言語に対応しているか、など観光スポットとしての優秀さを5つ星で表している。2つ目は「負の遺産指数」を1~10で点数をつけている。言うまでもなく、事件の内容や何を象徴しているかによって点数が異なる。ジェノサイドのような史上最悪の蛮行と関係がある場所は、コルディッツ城のような残酷さが薄い場所や共産主義時代の彫刻を集めた公園(抑圧的な体制のシンボルだが、誰かに直接危害を加えたものではない)と比べれば、当然ながら点数が高くなる。
記事の長さはまちまちだ。目的地の相対的な重要性を反映しており、数段落しかない場所がある一方で、チェルノブイリの記述は4ページにわたっている。約300の目的地の記事に加えて、特定のページでは類似スポットが列挙されている。たとえば、フランスのペール・ラシェーズ墓地の記事では、訪れておきたいほかの有名墓地が一覧になっている。また、ヴェトナムのメイン記事では、ヴェトナム戦争に関連したほかの場所にも言及している。個々の記事には包括的な役割を担っているものがある。とくに町や島に関する記事では、それらの場所に存在するさまざまな場所に言及している。それらもカウントすると、本書で紹介する場所の数は800近く、国・領域の数は130近くになる。
さらに、核兵器や放射線、火山学など目的地に関係する追加情報や、ルワンダのジェノサイドや朝鮮戦争などの背景情報を説明するページもある。一部の記事では、「負の統計」と題して別枠でファクトと数字を示している。
本書は、必ずしも最初から最後まで通して読む必要はない。興味がある記事を拾い読みするので十分だ。あるいは適当なページを開いて、どんな内容なのかを確かめるのもいいだろう。本書が次の旅行先の決定に役立つようなら、著者として幸いである。しかし、何らかの理由で現実の旅行ができない場合でも、ページをめくって地球のあちこちを移動し、この世界に存在するたくさんの負の遺産に詳しくなれるだろう。
[書き手]ピーター・ホーエンハウス(ダークツーリズム研究者)
ドイツ北部のハンブルクで生まれ、そこで英語学の博士号を取得した。イギリスやドイツの数多くの大学で専任講師を務め、現在はオーストリアのウィーンで暮らしている。2007年以降、ダークツーリズムの研究を続けており、このテーマについて学会とメディアの両方で執筆をしてきた。さらに2009年からは、「dark-tourism.com」というダークスポットに関する世界最大のオンラインリソースを編集している。活動的な旅行家であり、熱心な写真マニアでもある博士は、100か国近くの900ものダークスポットを訪れている。
300か所以上におよぶさまざまな悲劇のメモリアル
本書のおもな目的は、世界に存在するきわめて重要な負の遺産の概要を説明することだ。紹介する場所は、90カ国に存在する刑務所、強制収容所、核実験場、火山、暗殺現場、医学博物館、廃墟などおよそ300にのぼる。この「地図帳」はおおむね北西から南東へと地理的にまとめられており、北アメリカの西海岸から始まって南太平洋で終わる。本書は地理に力点を置いていないが、各セクションの最初のページには位置確認用のシンプルな地図を掲載した。どの国も、短い背景情報で始まり、そのあとに目的地の記事が続く。一部の記事、とくにいくつかの小さい島々は、目的地と国の両方を説明している。それらには、イギリスの海外領土であるフォークランド諸島やジブラルタルのような完全な主権国家ではなく、他国の属領も含まれる。しかし、「本国」から地理的に(そして、ある程度は政治的にも歴史的にも)離れているため、単独の目的地として扱われている。また、本書が印刷に回される時点で紛争が終結しておらず、独立国として国際的な認知が不十分なトランスニストリアやナゴルノ・カラバフのような「分離国家」もこれに当てはまる。
各目的地の記事には、所在地、カテゴリー、2種類の評価が記載されている。1つ目は一般的な「クォリティ評価」であり、アクセスしやすいか、訪問者用の設備が充実しているか、多言語に対応しているか、など観光スポットとしての優秀さを5つ星で表している。2つ目は「負の遺産指数」を1~10で点数をつけている。言うまでもなく、事件の内容や何を象徴しているかによって点数が異なる。ジェノサイドのような史上最悪の蛮行と関係がある場所は、コルディッツ城のような残酷さが薄い場所や共産主義時代の彫刻を集めた公園(抑圧的な体制のシンボルだが、誰かに直接危害を加えたものではない)と比べれば、当然ながら点数が高くなる。
記事の長さはまちまちだ。目的地の相対的な重要性を反映しており、数段落しかない場所がある一方で、チェルノブイリの記述は4ページにわたっている。約300の目的地の記事に加えて、特定のページでは類似スポットが列挙されている。たとえば、フランスのペール・ラシェーズ墓地の記事では、訪れておきたいほかの有名墓地が一覧になっている。また、ヴェトナムのメイン記事では、ヴェトナム戦争に関連したほかの場所にも言及している。個々の記事には包括的な役割を担っているものがある。とくに町や島に関する記事では、それらの場所に存在するさまざまな場所に言及している。それらもカウントすると、本書で紹介する場所の数は800近く、国・領域の数は130近くになる。
さらに、核兵器や放射線、火山学など目的地に関係する追加情報や、ルワンダのジェノサイドや朝鮮戦争などの背景情報を説明するページもある。一部の記事では、「負の統計」と題して別枠でファクトと数字を示している。
本書は、必ずしも最初から最後まで通して読む必要はない。興味がある記事を拾い読みするので十分だ。あるいは適当なページを開いて、どんな内容なのかを確かめるのもいいだろう。本書が次の旅行先の決定に役立つようなら、著者として幸いである。しかし、何らかの理由で現実の旅行ができない場合でも、ページをめくって地球のあちこちを移動し、この世界に存在するたくさんの負の遺産に詳しくなれるだろう。
[書き手]ピーター・ホーエンハウス(ダークツーリズム研究者)
ドイツ北部のハンブルクで生まれ、そこで英語学の博士号を取得した。イギリスやドイツの数多くの大学で専任講師を務め、現在はオーストリアのウィーンで暮らしている。2007年以降、ダークツーリズムの研究を続けており、このテーマについて学会とメディアの両方で執筆をしてきた。さらに2009年からは、「dark-tourism.com」というダークスポットに関する世界最大のオンラインリソースを編集している。活動的な旅行家であり、熱心な写真マニアでもある博士は、100か国近くの900ものダークスポットを訪れている。
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