自著解説

『新訂増補兼宣公記1』(八木書店)

  • 2024/04/26
新訂増補兼宣公記1 / 榎原 雅治
新訂増補兼宣公記1
  • 著者:榎原 雅治
  • 出版社:八木書店
  • 装丁:単行本(426ページ)
  • 発売日:2018-05-17
  • ISBN-10:4840651965
  • ISBN-13:978-4840651967
内容紹介:
至徳4年(1387)正月~応永29年(1422)12月
平安時代から江戸時代に至る歴史上の重要史料を翻刻収録した「史料纂集(しりょうさんしゅう)」シリーズ。刊行開始から60年近く経過した現在も、毎年新たな書目が刊行され、数多くの図書館で配架、研究調査する人々の机上に置かれ、基本文献として利用され続けています。本シリーズが長く現役を保ってきた編集上の工夫とは何か。歴史資料の翻刻・校訂作業とはどのようなものか。担当編集者が、室町時代の古記録「兼宣公記(かねのぶこうき)」の増補改訂作業を事例として、ご紹介します。

歴史資料の翻刻と増補改訂―『新訂増補兼宣公記1』を事例に

史料纂集とは

「史料纂集」は、日本の歴史・文化研究で必須の重要史料を、使いやすく翻刻した史料集成のひとつです。古記録編と古文書編の2種類があり、2024年4月現在272冊を刊行、今なお、年5冊前後のペースで刊行を継続しています。収録範囲は古代から近世にわたり、公家の日記から武士の書状、寺社の証文など、さまざまな時代やジャンルの歴史資料を、学会最高水準のテキストで提供しています。


重版時の修正

史料纂集シリーズの翻刻・校訂は、文字の一点一画をもおろそかにせず、原本の体裁を忠実に翻刻し、最良のテキストを提供するという方針を貫いてまいりました。
今後も重版のつど、前の版で見つかった正誤を修正することはもちろん、その間の研究の進展を受けて、傍注・標出(頭注)を中心に全面的に増補・改訂する作業をほどこし、学会・研究機関の要望に応えてまいります。

増補・改訂作業について具体的な書名をあげてみますと、『権記(ごんき)』の第1・第2の場合、重版時にそれぞれ300箇所ほど修正・補訂を加えました。『兼見卿記(かねみきょうき)』の第1・第2は新訂増補に際し、それぞれ1,200~1,300箇所以上の増補修正を行い、現在進行中の「Web版 史料纂集」でも、常に最新・最良の版のものを提供しています。

そこで今回は、具体的な改訂増補の事例として「新訂増補 兼宣公記1」をご紹介したいと思います。


「兼宣公記」と記主ついて

この日記の記主広橋兼宣(1366-1429)は、大納言広橋仲光(日記に「勘仲記(かんちゅうき)」がある)の子。貞治5年(1366)生まれ。弁官、蔵人頭、参議、権中納言などを経て、父と同じく大納言となり、応永32年(1425)に致仕し、准大臣に任じられて出家した人物です。
応永8年(1401)から公家と武家の連絡役である武家伝奏の職を長く勤め、公武交渉に重要な役割を果たしました。また、叔母の崇賢門院仲子は後円融天皇の生母で、後小松上皇の祖母として長く健在であったので、上皇の信頼も厚く、しばしばその文芸行事や遊興に参加しています。そのような兼宣の日記は、至徳4年(1428)正月から正長元年(1428)7月までの自筆原本があり、日次記33巻、別記30余巻が伝来していました。


公武のはざまで

兼宣は、足利義満・義持期に武家伝奏を務めたため、当該期の公武関係やエピソードに詳しい記述が多く見られます。武家の公家に対する行い、公家と武家との間で繰り広げられる事件や軋轢、室町将軍家と天皇家の権力関係等々、「兼宣公記」の記述からは、公家と武家との間で連絡調整役をこなした兼宣の苦労の跡が偲ばれ、この時期の政治史研究には必要不可欠の史料になっています。


新訂増補版刊行について

本書はかつて、続群書類従完成会から村田正志先生の校訂で昭和48年に刊行され、その後品切れとなり、長らく入手困難となっていました。その間、広橋兼宣自筆にかかる「兼宣公記」の日次記(ひなみき)と別記の多くは、所蔵が広橋家から東洋文庫、さらには国立歴史民俗博物館に移りました。そして近年、整理研究が進むとともに旧版には収録されていない部分や、旧版では写本を底本にしていた部分の自筆原本が存在するという事例が明らかになりました。

こうした状況をふまえて新訂増補版の編集に着手し、学会・研究機関の要望に応えるかたちで最新の研究成果を盛り込みました。利用の便宜を計るため、追加部分を旧版の末尾に補遺で載せたり、正誤表で補訂したりするのではなく、編年で新たにすべてを組版し直しています。さらに、原本との照合を行い、文字の翻刻、傍注、頭注については全面的に再検討し、修正と増補が必要なものについて新たに校訂を加えました。

新訂増補にあたっては、国立歴史民俗博物館所蔵の自筆日次記・別記、広橋家、下郷共済会、佐佐木信綱氏所蔵の自筆日記を底本とし、自筆記を欠く部分については、宮内庁書陵部、国立歴史民俗博物館、東京大学史料編纂所所蔵の写本などを活用させていただきました。結果、今回の版では旧版の328頁が438頁と大幅に増え、面目を一新しました。

ぜひとも最新版で資料の醍醐味を味わっていただければ幸いです。

[書き手]
柴田 充朗(しばた みつろう)
八木書店出版部 取締役部長
1980年続群書類従完成会入社、2007年八木書店に移籍。日本史史料の翻刻と専門書の編集に携わる。
新訂増補兼宣公記1 / 榎原 雅治
新訂増補兼宣公記1
  • 著者:榎原 雅治
  • 出版社:八木書店
  • 装丁:単行本(426ページ)
  • 発売日:2018-05-17
  • ISBN-10:4840651965
  • ISBN-13:978-4840651967
内容紹介:
至徳4年(1387)正月~応永29年(1422)12月

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ALL REVIEWS 2024年4月26日

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