書評

『指の骨』(新潮社)

  • 2024/08/10
指の骨 / 高橋 弘希
指の骨
  • 著者:高橋 弘希
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(138ページ)
  • 発売日:2017-07-28
  • ISBN-10:410120991X
  • ISBN-13:978-4101209913
内容紹介:
太平洋戦争中、南方戦線で負傷した一等兵の私は、激戦の島に建つ臨時第三野戦病院に収容された。最前線に開いた空白のような日々。私は、現地民から不足する食料の調達を試み、病死した戦友眞… もっと読む
太平洋戦争中、南方戦線で負傷した一等兵の私は、激戦の島に建つ臨時第三野戦病院に収容された。最前線に開いた空白のような日々。私は、現地民から不足する食料の調達を試み、病死した戦友眞田の指の骨を形見に預かる。そのうち攻勢に転じた敵軍は軍事拠点を次々奪還し、私も病院からの退避を余儀なくされる。「野火」から六十余年、忘れられた戦場の狂気と哀しみを再び呼びさます衝撃作。

戦地にて、苛まれてゆく心

話題の小説だ。戦争を知らない世代が描く「戦争小説」として、注目された。第152回芥川賞候補にもなった。

とにかく描写が巧い。小説を構成している要素は様々あるが、文章力に申し分がなく、描写や比喩が卓越していれば、それは純粋な意味で、すぐれた小説なのではないか。そんな気にさえなった。

太平洋戦争末期。「赤道のやや下に浮かぶ、巨大な島。その島から南東に伸びる細長い半島」。ここが小説の舞台だ。主人公は怪我をし、野戦病院に入り、そこを出て、さまよい歩く。丁寧な心理描写が嫌味にならない程度に書き込まれる。主人公は、戦争への疑問に苛まれ、徐々に気力を失っていく。

この小説をめぐって様々な議論がこれから起こるだろう。すでに賛否両論、ある。戦後70年という区切りの年にリリースされるという時期的符合も拍車をかけるだろう。

戦争を描くこととは何か、何を描けば戦争を描いたことになるのか。原初的とも言える問いに、この小説は私たちを立ち返らせる。それだけの力を持った小説であることだけは確かである。
指の骨 / 高橋 弘希
指の骨
  • 著者:高橋 弘希
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(138ページ)
  • 発売日:2017-07-28
  • ISBN-10:410120991X
  • ISBN-13:978-4101209913
内容紹介:
太平洋戦争中、南方戦線で負傷した一等兵の私は、激戦の島に建つ臨時第三野戦病院に収容された。最前線に開いた空白のような日々。私は、現地民から不足する食料の調達を試み、病死した戦友眞… もっと読む
太平洋戦争中、南方戦線で負傷した一等兵の私は、激戦の島に建つ臨時第三野戦病院に収容された。最前線に開いた空白のような日々。私は、現地民から不足する食料の調達を試み、病死した戦友眞田の指の骨を形見に預かる。そのうち攻勢に転じた敵軍は軍事拠点を次々奪還し、私も病院からの退避を余儀なくされる。「野火」から六十余年、忘れられた戦場の狂気と哀しみを再び呼びさます衝撃作。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2015年3月4日

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