書評
『文盲: アゴタ・クリストフ自伝』(白水社)
動乱のさなか、敵語で書く
『悪童日記』三部作を読んだときの衝撃は忘れられない。研ぎ澄ました文章。残酷な内容。童話のような語り口。アゴタ・クリストフが小説を発表しなくなってから十年以上の歳月が流れている。いつまで待たされるのかという焦りにも似た気持ちに、少しだけ応えてくれる本だ。
一九五六年のハンガリー動乱のさいに、乳飲み子を抱いて祖国を離れスイスに移り住んだ女性は、もともと何よりも本を読むことが好きだった。四歳で読むことができた、とある。だが、祖国を離れた途端、ふたたび「文盲」に戻らなければならなかった。「フランス語で書くことを、わたしは引き受けざるを得ない。これは挑戦だと思う。そう、ひとりの文盲者の挑戦なのだ」
どれほどフランス語に習熟しようと、フランス語は「敵語」であり、それを使って書くことは「挑戦」なのだ、という言葉は、胸に響く。
詳細な伝記というわけではない。事実関係はさほど書き込まれているわけでもない。だが、彼女の他の小説と同じく、ギリギリまで刈り込まれた文章が、苛酷(かこく)な状況で書くことを選んだ意志の重さを伝えてくる。
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