書評
『ホノルル、ブラジル: 熱帯作文集』(インスクリプト)
語る口調に独特の熱気
管啓次郎の文章は、いつ読んでもみずみずしさに溢(あふ)れている。文学作品だろうと、ハワイだろうと、トルティーヤだろうと、自分が好きなものを語る口調には、独特の熱気がある。それでいて対象との距離感が絶妙なのだ。彼の最初の著書『コロンブスの犬』という本を、もう二十年近く前に手に取った日のことを思い出した。まったく変わらない読後感をこの新著からも味わった。副題に「熱帯作文集」とあるとおり、ハワイやブラジルに滞在した折の記憶や経験がベースに語られる。漫然と、ではない。味覚と言語を通じて、つまり舌を介して感じ取ったモノが文字に置き換えられるのだ。辛い食物や乾燥した高地の暑さが、広大さや不均衡や喧騒(けんそう)や静寂が、奇蹟(きせき)的な言葉で綴(つづ)られている。
この本は、著者が教職に就いてから書いた文章を元に編まれている。だから、やや若者に語りかける調子が前面に出ている。だがここでも管は読者に対して絶妙の距離を取る。押しつけるでもなく媚(こ)びるでもない。けっして声高ではないが力強い声は、地球を何周もするほどの移動を刻印しながら、この本を類書のない、際立った書物に仕立てている。
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