書評
『ミッキーは谷中で六時三十分』(講談社)
不思議な空気とちょっとだけ意外な結末
片岡義男が旺盛に小説を発表するようになってから、何年くらいだろうか。昔、片岡の小説を読んでいた世代からすれば、カムバックは喜ばしい限りだ。最新作は、東京の街が舞台の短篇集。谷中、高円寺、三軒茶屋、経堂、下北沢、渋谷……。こうして並べると、人気のスポットと言えなくもない。だがいまふうの街の様子とは、まるで関係のない登場人物たち。たとえば冒頭の「ミッキーは谷中で六時三十分」。主人公はフリーランスで雑誌に文章を書いているライター。彼はある喫茶店に入る。コーヒーを飲みたいのかと自問するが「さほどでもない」という答えを抱えながら、喫茶店のドアを押す。宙(ちゅう)ぶらりんの気持ち。
店主は主人公に「なにしてんのよ、仕事は。今日は平日なのに」と語りかける。「なにもしてません」と答えると、「ほんとに、なにもしてないの?」と店主は畳み掛ける。「これと言って」と主人公。「あれと言えば?」と店主が言い、会話が続く。
言葉遊びがある。それを特別視しない不思議な空気が流れている。そしてちょっとだけ意外な結末。堪能できる。
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