書評

『のけ者』(白水社)

  • 2026/08/16
のけ者 / エマニュエル・ボーヴ
のけ者
  • 著者:エマニュエル・ボーヴ
  • 翻訳:渋谷 豊
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(314ページ)
  • 発売日:2010-05-01
  • ISBN-10:4560080674
  • ISBN-13:978-4560080672
内容紹介:
かつては「深窓の令嬢」でありながら、どこの馬の骨とも知らぬ移民の若者と駆け落ちし、長年消息を絶っていたルイーズ・アフタリオンは、ある日、夫の忘れ形見ニコラを連れ、姉を頼ってパリに… もっと読む
かつては「深窓の令嬢」でありながら、どこの馬の骨とも知らぬ移民の若者と駆け落ちし、長年消息を絶っていたルイーズ・アフタリオンは、ある日、夫の忘れ形見ニコラを連れ、姉を頼ってパリに舞い戻る。だが、姉夫婦の冷たい仕打ちに耐えかね、親子はホテル暮らしを決意。やがてその宿代も滞納し、徐々に宿泊先のランクを下げていく。
金の工面の担当は息子のニコラ、方法はもっぱら無心。親類や友人、また行きずりの誰かから金を借りては、踏み倒していく。決して悪気はないのだが、「貧乏貴族」アフタリオン親子は、ついつい調子に乗って、分もわきまえず、すぐに浪費してしまうのだ。
追い詰められたニコラは、ようやく郊外の工場に働き口を見つけるが、厳しい規律や表層的な人間関係に疲れ、たった二週間で突然の出社拒否。とうとう母親も精神のバランスを崩し、借金の当ても遂になくなり、親子は破滅へと向かっていく--。
一見、救いのない凄惨な話にも思えるが、かのベケットから「心に沁みる細部のセンス」と称えられたボーヴの筆は、<どん底>の中にも、驚くべき詩情や安らぎ、可笑しみを描き出す。疎外感・劣等感・被害妄想......現代人の心の暗部をとびきりの抒情で詠いあげた、ボーヴの傑作小説。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ダメ人間を描く繊細なユーモア

エマニュエル・ボーヴの新しい翻訳が出た。これまでに3冊、ボーヴの小説は訳されてきたが、今度もやっぱりダメな人間を描いていて期待通り!

主人公のニコラは23歳、無職。母親のルイーズと2人暮しだが、家はない。ルイーズの姉を頼ってパリに舞い戻るが相手にされない。安ホテル住まいも資金が尽きかける。

ニコラは誰かれともなく金を無心し、踏み倒す。浪費癖は抜けず、追いつめられ就職するが、適応できず出社拒否に陥る。そして破滅へと向かっていく。

まあ、救いのない話。陰鬱(いんうつ)になる。だがこの人の小説には、じつに繊細な細部がある。ちょっと他の人には書けないような、ユーモアに溢(あふ)れたディテールの輝きがあるのだ。

一読、社会参加なんて言葉とは縁がなさそうな小説だが、じつはそうではない。たとえば移民政策の変動にボーヴ自身、影響を受けているし、それが小説に影を落としてもいる。ボーヴが日本語に翻訳され、着実に読者の心を掴(つか)んでいること自体、なんだか奇蹟(きせき)的な気がするし、ちょっと嬉(うれ)しくなる話なのだ。渋谷豊訳。


のけ者 / エマニュエル・ボーヴ
のけ者
  • 著者:エマニュエル・ボーヴ
  • 翻訳:渋谷 豊
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(314ページ)
  • 発売日:2010-05-01
  • ISBN-10:4560080674
  • ISBN-13:978-4560080672
内容紹介:
かつては「深窓の令嬢」でありながら、どこの馬の骨とも知らぬ移民の若者と駆け落ちし、長年消息を絶っていたルイーズ・アフタリオンは、ある日、夫の忘れ形見ニコラを連れ、姉を頼ってパリに… もっと読む
かつては「深窓の令嬢」でありながら、どこの馬の骨とも知らぬ移民の若者と駆け落ちし、長年消息を絶っていたルイーズ・アフタリオンは、ある日、夫の忘れ形見ニコラを連れ、姉を頼ってパリに舞い戻る。だが、姉夫婦の冷たい仕打ちに耐えかね、親子はホテル暮らしを決意。やがてその宿代も滞納し、徐々に宿泊先のランクを下げていく。
金の工面の担当は息子のニコラ、方法はもっぱら無心。親類や友人、また行きずりの誰かから金を借りては、踏み倒していく。決して悪気はないのだが、「貧乏貴族」アフタリオン親子は、ついつい調子に乗って、分もわきまえず、すぐに浪費してしまうのだ。
追い詰められたニコラは、ようやく郊外の工場に働き口を見つけるが、厳しい規律や表層的な人間関係に疲れ、たった二週間で突然の出社拒否。とうとう母親も精神のバランスを崩し、借金の当ても遂になくなり、親子は破滅へと向かっていく--。
一見、救いのない凄惨な話にも思えるが、かのベケットから「心に沁みる細部のセンス」と称えられたボーヴの筆は、<どん底>の中にも、驚くべき詩情や安らぎ、可笑しみを描き出す。疎外感・劣等感・被害妄想......現代人の心の暗部をとびきりの抒情で詠いあげた、ボーヴの傑作小説。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2010年6月2日

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