はじめに
いま、なぜソニーなのか――。本書は、ソニーの「復活物語」ではない。「第2の創業物語」である。「第2の創業」は、ソニーグループ会長CEO(最高経営責任者)の吉田憲一郎が打ち出した「Purpose(パーパス/存在意義)」に負うところが大きい。「Purpose」は、約1万人のグループ社員の1人ひとりが、自立して創造力を発揮するための基盤となり、また、一丸となって新たな価値を創造するための軸となった。ソニーのクリエイティビテ背景である。
ソニーは空前の好業績をあげているが、日本のものづくりの象徴だったかつてのソニーとはもはや別の会社ではないか。そうとらえている人は少なくないが、その見方は必ずしも当たっていない。
「第2の創業」とはいえ、創業者の長期視点が継承されていることに特色がある。「ソニーは、新しい製品を次々と発表するので、非常に気の短い企業だと思われるかもしれないが、実際には、何事も一○年サイクルで考え、実行してきたといえると思う」と、創業者の1人の盛田昭夫は自らの著作『21世紀へ』(WAC刊)で述べている。
ソニーのもう1人の創業者、井深大は、「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」の文言で知られる「設立趣意書」を起草した。この設立趣意書には、技術革新、社会貢献、社員の成長など、ソニーの基本的な姿勢と目的が明確に示されている。
吉田は、2人の創業者の長期視点を受け継ぎ、その延長線上で企業文化や価値観を再定義し、新たな成長の道を切り拓いた。つまり、「過去」があるから「現在」がある。「よりよいソニーをつなぐ」――。吉田は、しばしばこの言葉を口にする。
本書に登場するのは、「最高の働き方」を実践するソニーの人たちだ。活躍のフィールドを探し求め、自らの責任において仕事を選び、自らの意思で人生を切り拓いていく。そんな挑戦する個人をソニーは後押しする。個人と会社の幸福な奇跡的関係を見ることができる。
いまのソニーは、日本の「未来」のお手本である。